溺れるほど甘い、でも狂った溺愛
レモンの香りと白いグラサージュ。
光を閉じ込めるように作った、自分なりの“希望”の形を込めたものだった。
試食用に小さく切り分けたケーキを並べ、笑顔を作る。
少しずつお客さんが通りすぎていく。
たまに足を止めてくれる人がいると、丁寧に声をかけた。
「よろしければ、試食どうぞ」
「わあ、爽やか……。甘さがちょうどいい」
そう言ってくれる人がいるだけで、胸が温かくなる。
でも、列はできない。
それでもわたしは焦らなかった。
きっとそれは、煌が背中を押してくれたからだ。
ホールの少し離れた場所では、煌が人の波にまぎれていた。
目立たないように黒のキャップを被り、静かにわたしのブースを見つめている。
彼は試食用の列に自然に紛れ込み、テーブルの前に立った。
「いらっしゃいませ。――あっ」
目が合った瞬間、わたしの声がわずかに弾む。
煌は口元に微笑を浮かべ、試食皿を受け取った。