溺れるほど甘い、でも狂った溺愛


――“光を描かせてくれた”


(じゃあ、わたしも――“笑顔を作る”側で、ちゃんと応えなきゃ)


リビングのテーブルに置かれたエプロンを手に取る。

鏡の前で結び直しながら、心の中で小さく呟いた。


「よし。行こう」


外に出ると、朝の空気は少し冷たくて、それがかえって心地よかった。

今日の空は、雲ひとつなく晴れている。


(――煌、見ててね)


そう心の中で言いながら、わたしはイベント会場へと向かって歩き出した。





イベント会場の扉が開くと同時に、熱気と甘い香りが押し寄せた。

照明の光が天井の金属に反射し、ホール全体がきらきらと輝いている。


開場からわずか十分。

すでに有名店のブースには長蛇の列ができていた。


「さすがだな……」

小さく呟いて、自分のテーブルに視線を戻す。

テーブルクロスの上には、新作のケーキ《シトロン・ルミエール》。

< 141 / 182 >

この作品をシェア

pagetop