溺れるほど甘い、でも狂った溺愛


わたしは驚いて、言葉の続きが出てこなかった。

この5年間ずっと見てきた投稿――

それを書いていたのが、まさか煌だったなんて——


「“スイーツ好き画家”で“スイーツ好きが()”ってことだったのね。煌まんまじゃない」

「名前つけるの本当は苦手なんだ……それに最近の投稿はすべて真白が作ったケーキの感想だよ」


――静かな夜。

この日のふたりの間には、言葉ではなく、笑いがあふれていた。





翌日の午後。

やわらかな光が差し込む厨房で、わたしはいつも通りケーキのデコレーションをしていた。


ホイップを整えながら、心の中では何度も同じ言葉を繰り返していた。


(伝えよう。ちゃんと、自分の気持ちで)


タイミングを見計らって、そっと奥にいるご夫婦へ声をかけた。


「芙美子さん、慎一(しんいち)さん……少しお話、いいですか?」


ふたりが顔を上げる。

手を止めたその仕草には、どこか察しているような優しさがあった。


「もちろん。……考えは、まとまった?」

「はい」


小さく頷いて、胸の前で手を重ねる。

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