溺れるほど甘い、でも狂った溺愛
「昨日からずっと考えていました。お話をいただけたこと、本当に嬉しかったです。〈ラ・グランジュ〉みたいな有名なお店で働けるなんて、きっとすごい経験になる。でも――」
息を吸う。
胸の奥で、何かがすっと整っていく。
一瞬だけ言葉が喉の奥で止まった。
けれど、胸の奥から自然に出た。
「でも、わたし……このお店で働き続けたいです」
ふたりの目が少しだけ丸くなった。
「……そう、なのね」
「はい。この厨房で、ケーキを作ってると落ち着くんです。ここで学んだこと、支えてもらったこと……全部が、わたしの宝物だから。まだまだ成長したいけど、それはここで叶えたい。この場所で、もっとお客さんを笑顔にできるようになりたいんです」
言葉にしていくうちに、迷いがひとつずつ消えていった。
伝えることで、心がすっと軽くなる。
静かな沈黙のあと、ご主人がゆっくりと頷いた。
「……そう言ってもらえるとは思わなかったよ。正直、あの有名店から声がかかった時は“うちじゃもう止められないかな”って思ったんだ。なんだか胸がじんとするな」
「そんな……」