溺れるほど甘い、でも狂った溺愛
「え……?」
「すぐじゃないさ。でも、俺たちもいつまでも現役じゃいられない。この店を誰かに託すなら……真白ちゃんしかいないと思ってる」
芙美子さんが、そっとエプロン越しにわたしの手を握った。
「焦らなくていいのよ。でも、いつか“自分の店”だと思って動けるようになってね。それが、私たちの一番の願いだから」
胸の奥がじんわりと熱くなった。
(……わたし、この場所で生きていきたい)
「はい。これからも、どうかよろしくお願いします」
「こちらこそ」
厨房に笑い声が広がる。
オーブンからは、焼き立ての香ばしい匂いがふわりと漂ってきた。
――それはまるで、あたたかな未来の香りのようだった。
その香りの向こうに、あの人の笑顔が浮かんだ気がした。