溺れるほど甘い、でも狂った溺愛
そこに、ご主人がタイミング悪く顔を出した。
「おーい真白ちゃん、あとは俺たちがやっとくか……って、あれ?」
目の前で軽く距離を詰めた煌とわたしを見て、一瞬、言葉が止まる。
視線の奥には、驚きと、どこか寂しそうな色が混じっていた。
「……あー、その、帰りを迎えに来てくれたんです」
「はは、そうか。……うん、いいことだ」
言葉とは裏腹に、ご主人の表情は複雑そうだった。
それでも、次の瞬間、ふっと笑って頭を掻く。
「ま、あれだな。可愛い娘を誰かに取られた親父の気分だ」
「え……」
「いや、気にすんな。真白ちゃんが幸せそうなら、それでいいんだ」
そう言って奥へ戻っていく背中に、胸がじんわりと温かくなった。
店の外に出ると、夜風が心地よく頬を撫でた。
煌が傘を傾けながら、わたしの手をそっと握る。