溺れるほど甘い、でも狂った溺愛
会計を済ませて紙袋を手渡すと、彼が少し迷うように言った。
「……もしかして、僕のこと調べました?」
どきり、と心臓が跳ねる。
「えっ……な、なんでそう思うんですか?」
「なんか、僕を見る目が変わった気がして」
「神城さんを見る目……?」
「ほら、僕のこと、名前で呼んでくれるし。今までは不審者でも見るような目をしてたけど、そうじゃなくなったから」
(……わたし、そんな目で神城さんのこと見てたの……)
頬が少し熱くなって、視線を逸らした。
「……失礼かと思ったんですけど、実はネットで検索してみたんです。あとは、ほかの人から聞いたりもして。神城さん、すごく有名な画家さんなんですね」
「有名……うーん、どうでしょうね」
神城さんは首を傾げ、どこか照れくさそうに笑った。
「でも、“おねーさん”がそう言うなら、少しはそうなのかも」
その笑みを見ていると、心のどこかが不意に緩む。
思わず口を開いた。
「……あの、“おねーさん”じゃなくて。桐谷です。桐谷真白、です」
自分で名を口にした瞬間、胸の奥が少しだけ熱を帯びた。
一瞬の沈黙。
それから、神城さんの目が柔らかく細められた。