溺れるほど甘い、でも狂った溺愛


会計を済ませて紙袋を手渡すと、彼が少し迷うように言った。


「……もしかして、僕のこと調べました?」


どきり、と心臓が跳ねる。


「えっ……な、なんでそう思うんですか?」

「なんか、僕を見る目が変わった気がして」

「神城さんを見る目……?」

「ほら、僕のこと、名前で呼んでくれるし。今までは不審者でも見るような目をしてたけど、そうじゃなくなったから」


(……わたし、そんな目で神城さんのこと見てたの……)


頬が少し熱くなって、視線を逸らした。


「……失礼かと思ったんですけど、実はネットで検索してみたんです。あとは、ほかの人から聞いたりもして。神城さん、すごく有名な画家さんなんですね」

「有名……うーん、どうでしょうね」


神城さんは首を傾げ、どこか照れくさそうに笑った。


「でも、“おねーさん”がそう言うなら、少しはそうなのかも」


その笑みを見ていると、心のどこかが不意に緩む。

思わず口を開いた。


「……あの、“おねーさん”じゃなくて。桐谷です。桐谷真白、です」


自分で名を口にした瞬間、胸の奥が少しだけ熱を帯びた。


一瞬の沈黙。

それから、神城さんの目が柔らかく細められた。

< 23 / 182 >

この作品をシェア

pagetop