溺れるほど甘い、でも狂った溺愛
「真白さん?」
神城さんの声が遠くに聞こえた。
気づけば、視界が少し滲んでいた。
「……あ、ごめんなさい。ちょっと……具合が」
「顔、真っ青ですよ。少し休みましょう」
「だいじょうぶ、です。帰れば……」
言い切る前に、神城さんがそっと腕を支えた。
その手の温もりが、逆に現実を突きつける。
「この近くに、僕のアトリエがあるんです。少しだけ座っていきましょう」
「……アトリエ?」
「ええ、すぐそこです」
彼の声は穏やかだった。
けれど、歩くうちに足がうまく動かなくなる。
視界の端で、あの店の明かりが遠ざかっていく。
それなのに、あの笑顔だけは、頭から離れなかった。
――また、あの頃みたいに、心が凍っていく。
そんな感覚を抱えたまま、わたしは神城さんに支えられ――
夜の街の奥へとゆっくり歩いていった。