溺れるほど甘い、でも狂った溺愛
外では、街灯の光がうっすらとレースのカーテンを透かしている。
その光が、彼の横顔を淡く照らしていた。
(……この人の“痛み”は、どんな色なんだろう)
わたしは、そう思いながらカップを見つめた。
黒い液面に、わたしの顔と、彼の影がゆらりと映る。
それが、現実なのか、記憶なのか。
一瞬、わからなくなった。
――その部屋の奥には、まだわたしの知らない絵が眠っている。
その存在に気づいたとき、胸の奥で何かが、かすかに音を立てた。
神城さんは少し迷うように立ち上がった。
部屋の奥、他のキャンバスとは少し離れた場所。
そこに、一枚の布をかけられた大きな絵が立てかけられている。
「……“あの絵”を、見ますか?」
その声は、どこかためらいを含んでいた。
「“あの絵”、ですか?」
「高校の頃に描いたんです。あのとき……“真白さんのケーキの味”をきっかけにして」