溺れるほど甘い、でも狂った溺愛


「ええ、芙美子さんと旦那さんには許可をいただいていますからね。また少しだけ、真白さんが作るところ見に来ました」


(……そこまでして)


驚くよりも先に、心が少しだけ震えた。


キッチンの外のカウンター席に腰を下ろす神城さん。

明かりを落とした店内で、ガラス越しにわたしの手元を見つめている。


生地を混ぜる音、オーブンのタイマー、粉の舞う光。


そのすべてを、彼は言葉もなく目で追っていた。


まるで、絵を描くためではなく、

“わたしという存在そのもの”を記録しているような、


そんな眼差しだった。


その視線が、ガラスを隔てているのに、まるで直接触れられているような錯覚を覚えた。

 

焼き上がりのベルが鳴る。

わたしがオーブンを開けると、ふわりとバターと砂糖の香りが広がった。


神城さんはその香りに、静かに目を閉じた。


「……やっぱり、この瞬間が一番わくわくしますね」

「この瞬間?」

「焼きあがった瞬間の空気です。絵が出来上がる前と同じ感覚になるんですよね。どんな出来上がりになるのかって」


穏やかに笑いながら言うその声が、どこかひどく切実に聞こえた。

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