溺れるほど甘い、でも狂った溺愛
「……昼間のお客さん、よく来られるんですね」
「はい。商店街のカフェの方なんです。よく差し入れをしてくださって」
「そうですか」
短い返事だった。
その声音のわずかな低さに、胸の奥がかすかにざわめいた。
その一言が、氷のように静かで、なぜか背筋を撫でられた気がした。
神城さんは、スケッチブックを閉じた。
ゆっくりと、わたしの方を見つめる。
「……あなたが笑うのを見ると、嬉しくなるんです」
「え?」
「でも同時に、苦しくもなる。――その笑顔が、自分以外の誰かのためにあるのが、たまらなく嫌になる」
静かな声だった。
なのに、胸の奥に直接触れるような熱を帯びていた。
息が詰まる。
神城さんは少し笑って、目を伏せた。
「……ごめんなさい。こんなこと言うつもりじゃなかったんです」
「いえ……」
「僕はあなたの作るものに惹かれて、でも、きっとそれ以上のものを求めてしまっているんでしょうね」