溺れるほど甘い、でも狂った溺愛
イベントが終わるころ、空は少しずつオレンジから群青へと変わっていった。
片づけを終えた通りには、紙コップや風船のかけらが散らばり、どこか名残惜しそうに子どもたちの笑い声が遠ざかっていく。
テントの下で、わたしは最後のケーキ箱を片付けながら、ふっと深く息を吐いた。
「……終わりましたね」
「お疲れさま、真白ちゃん。よく頑張ったわね」
芙美子さんが笑顔でそう言い、旦那さんも頷いた。
「今日の売り上げ、予想以上だったぞ。評判も上々だ」
「本当ですか……」
胸の奥がふわりと温かくなる。
久しぶりに“やり遂げた”という感覚があった。
二人が先に荷物を運びに行き、ブースの周りに静けさが戻る。
そのとき――背後から、やわらかな声がした。
「お疲れさまでした」
振り返ると、神城さんが立っていた。
夕暮れの光を背にして、少しだけ影を落としている。