溺れるほど甘い、でも狂った溺愛
周りには人がいて、風の音がして――
なのに彼の言葉だけが、耳の奥に焼きついたまま離れなかった。
神城さんはそのまま、ブースの端に貼られたポスターに目をやった。
「……やっぱり、あの色を描いて正解でした」
淡い金色の光に包まれたケーキの絵。
それは現実のケーキとまるで対になるように、静かに輝いていた。
「このポスターのおかげで、たくさんの人が足を止めてくれてるのよ」
芙美子さんが笑顔で言う。
神城さんは軽く頭を下げた。
「それなら、描いた甲斐がありました」
その声は穏やかだったけれど――
わたしには、ほんの少しだけ違う響きに聞こえた。
風が吹き抜けて、ポスターの端がひらりと揺れた。
陽射しがケーキの表面を照らし、金色の光がきらめく。
その瞬間――わたしはふと気づいた。
(ああ、わたし……戻ってこれたんだ)
誰かに見られても、もう怖くない。
ちゃんと、自分の味を出せる。
胸の奥で、静かな誇りが芽生える。
それはまだ小さな光だけど、
確かに、わたし自身の中で灯っていた。
その光が、次に何を照らすのか――まだ、誰にもわからない。