溺れるほど甘い、でも狂った溺愛
微笑んだ神城さんは、まるで子どものような表情で材料を差し出した。
――生地を混ぜる音が、静かな部屋に響く。
わたしが粉をふるい、卵を割るたびに、神城さんはキャンバスの前から目を離さない。
筆が動く音。
オーブンの予熱のファンが回る音。
まるで、部屋全体が“二人だけの時間”で包まれているようだった。
「……ここにあなたの匂いが残るのが、好きなんです」
その一言に、胸がざわつく。
けれど、何も言い返せなかった。
焼きあがったケーキの表面を見つめながら、わたしは気づいていた。
――この部屋に来るたびに、
少しずつ、彼の中で“描くこと”と“わたし”の境界が曖昧になっていく。
夜の風は少し冷たくて、春の匂いがほんのり混ざっていた。