乙女ゲームのメインヒーロー、なぜかヒロインから溺愛周回攻略されてます
 カナエは、高らかに叫ぶ。目の端をほんのりと滲ませて。

「……死が二人を、分けたとしても……?」

 ゲーム全編通してヒロインが死ぬことなんて、ない。彼女は、絶対に死なない。死なないのだ。

「ええ、私が、もし死んでしまっても。何度巻き戻されても、これが、ゲームになってしまったんだとしても」

「違う!」

 叫んでしまってから、愕然とした。違わない。これはゲームだ。何度だって巻き戻される。それは事実なのに、彼女が死を仄めかしてくるのが、無性に腹立たしい。

『彼女が死ぬことなんて、ないのに。彼女は、私が守るのに。絶対に、死ぬはずなんてないのに』

 どうして、彼女が死を口にすることが、こんなにも胸をかき乱すのだろう。ただのヒロインだ。

『彼女は絶対に死なせない。私が守る』

 ゲームの世界だ、ストーリーにないから戸惑っているだけだ。彼女をついからかってしまうのは、必要以上にスキンシップをとるのは、確かにカナエのことが好きなのかもしれない。その好意がゲームの枠内なのか、枠外なのか判らずとも。だからといって、婚礼の誓い一つで、こんな混乱するようなことはない筈だ。それなのに、頭の中がうるさい。

「君は、死なないんだ。絶対に……」

「ミカ……」

「こんな婚礼のシーン、あの時はなかった」

 自分の口から出た言葉に、首を捻る。まるで自分の中に、自分でないものがいるかのように、勝手に言葉が滑りおちる。

「君がいない世界なんて、間違いだ」

 エンディングの曲など、とうに終わっている。

 頭をかかえて、膝をついた。頭の中がぐるぐるとして、吐きそうだ。

 10周目のエンディングが、そのまま暗転して途切れた。
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