乙女ゲームのメインヒーロー、なぜかヒロインから溺愛周回攻略されてます

?周目 途切れた時間

?周目

 もう忘れてしまった筈の遠い過去の記憶。封じ込めて忘れ去っていた記憶。それが音を立てて蘇る。

 私は魔力量こそ絶大だったが、既存のどの属性とも合わず、魔法を扱うことができなかった。だが、その魔力も無駄にはならなかった。

 魔王復活の危機に瀕して、聖女の召喚を行うのに、私の魔力が役に立ったのだ。

 本来、異世界から聖女を召喚する魔法は、魔法師と神官を数百人集めて成功するかどうか判らない程、膨大な魔力を必要とするものだ。世界各国の魔法師と神官を集めれば、魔力量も事足りるかもしれないが、各国への交渉や渡航の期間を考えれば、とても時間が足りない。ぐずぐずしている間にも、魔王の復活によって街がモンスターに襲われてしまう。

 だから、私の使いもしない魔力を使って、聖女召喚を行ったのだ。

 アーネスト国の王城広間に、その魔法陣は描かれた。魔力提供をする私は、陣のすぐ傍に立って、聖女となるべき女性が降り立つのを待った。

「きゃっえっ、何!?」

 光と共に舞い降りたのは、黒髪に黒い瞳の女性だった。古に伝わる聖女そのものの容姿だ。

「おお、聖女よ! 召喚に応じてくださり、感謝します!」

 神官が大仰に迎え入れ、混乱する彼女に現状の説明をする。

「そんなこと言われても……もう、帰れないの?」

「いいや。魔王の討伐に協力さえしてくれれば、再び同じ手順で元の世界にお送りしよう」

 それまで神官の説明に任せていた私は、一歩進み出て聖女に話しかける。

「……本当?」

「勿論だとも。討伐にはご協力頂くが、あなたに約束する。」

「あ、えと、私は――です。お名前をうかがっても?」

 泣きそうな顔をしていた聖女が、私の名前を問うた。

 そこから、聖女を伴った魔王討伐の旅が始まったのだ。

 旅はおおむね順調だった。王都から出発した私たちは、時々出会うモンスターを蹴散らし、聖女もまた祈りの力で私たちの力になってくれた。

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