乙女ゲームのメインヒーロー、なぜかヒロインから溺愛周回攻略されてます

カナエ

カナエ

 異世界アルデウムでの記憶が蘇り始めたのは、まだ幼い頃のことだった。

 カナエが5歳になった頃、毎夜、少しずつ夢を見た。不思議な夢がお気に入りだったが、それが前世なのだとは初めは思っていなかった。大人の女性が視点であることや、モンスターが出てくること、祈りで傷を癒したりするようなファンタジーの世界が、現実に起こったことだとは、思えなかったからだ。

 連続して夢の続きを見ることもあったし、同じ夢を何度か繰り返し見たこともある。順番はちぐはぐで、前世のカナエが死んだ瞬間の夢もあった。けれど、異世界召喚をされる前の夢はほとんどなく、アルデウムでの夢ばかりだった。その中でも、頻繁に登場する金髪の王子様が、カナエのお気に入りだった。

 口調こそぶっきらぼうだが、ミヒャエルという王子様は、とてもカナエに優しかったし、何より顔が良かった。幼いカナエが憧れたのも無理はない。

 夢はとぎれとぎれで、ところどころ聞き取れないところもあった。一番顕著に音が途切れていたのは、誰かがカナエの名前を呼ぶ時だ。だから、彼女はずっと、その夢がカナエの前世なのだとは気づけなかった。

 夢がカナエの前世だと気づいたのは、16歳の誕生日の前日、夢の中で鏡を見るシーンが出てきた時のことである。

 夢の中の鏡に映った彼女の姿は、驚くくらいにカナエに瓜二つだった。そして、部屋の扉を開けて入ってきたミヒャエル王子は、夢の中の彼女を『カナエ』と呼んだのだ。

 カナエはその事実を、夢と現実を混同しているのだろうと思った。幼い頃から見ている夢だから、いつの間にか自分と擦り替えたのだろうと。

 けれどそうではないことに、誕生日プレゼントを貰った瞬間に気づいた。

「誕生日おめでとう、カナエ」

 親が渡してくれたプレゼントのラッピングに、奇妙に見覚えがあるような気がした。そうは言っても、ラッピングなんてみんな似たり寄ったりで、同じものなんてごまんとある。違和感を無視してカナエがそれを開くと、出てきたのは鞄だった。

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