乙女ゲームのメインヒーロー、なぜかヒロインから溺愛周回攻略されてます
 そうして進む旅の中で、一番最後に、また記憶と違う所が出てきた。

 魔王はあっけなく討伐することができたのだ。

「うそ……」

「カナエ、ありがとう」

 魔王を倒せたのに自分が生きている事実を確認して呆然としていると、ミヒャエルが抱きしめてくれた。その瞬間に頭がぼんやりとして、次の時にはいつの間にかカナエは婚礼衣装を身に着けて王城の広間前に立っている。思い出そうとすれば、王城に帰るまでの旅路も、婚礼衣装へ着替えている間の記憶もある。けれど、うすぼんやりとしていて遠く、まるで一瞬で場面が移動したかのような錯覚に陥る。

 実のところ、そういうことは、アルデウムに召喚されてから今まで何度も何度もあった。そのたびに何故か場面が転移したことを忘れていたが。

 でもそんな違和感よりも、今カナエにとっては生き残れたことが嬉しかった。魔王が倒せて、今、ミヒャエルの隣に立てていることが嬉しい。しかも、ミヒャエルは礼服に身を包んでいて、今まで見たどんな服装よりも飛びぬけて格好いいし、とろけるような笑みをカナエに向けている。

 幸せの絶頂だった。だからつい、本音がこぼれた。

「本当に、倒せて良かった」

「ゲームだから当たり前だろう?」

 カナエはミヒャエルの言葉が一瞬、理解できなかった。

 驚いてミヒャエルの顔を仰ぎ見れば、彼は明らかに失言をしたという顔をしている。

 それに加えて、これまで何度も場面が飛んだこと、ミヒャエルが記憶と違って『乙女ゲームのメインヒーロー』のような態度だったことを思い出して、納得した。

 全てゲーム。乙女ゲームだったから、ミヒャエルは甘い王子様だったし、場面は飛んだし、魔王もあっけなく倒せたのだ。

「……そっか」

 小さく呟いてから、カナエは再び歩き始める。

「ゲーム。ゲーム、かあ……それでかあ」

 カナエは歩きながら、落胆した。

 彼女の心にあるミヒャエルへの思いは本物だったが、ミヒャエルはゲームだから、シナリオに沿ってカナエを愛している演技をしているに過ぎない。

< 31 / 66 >

この作品をシェア

pagetop