乙女ゲームのメインヒーロー、なぜかヒロインから溺愛周回攻略されてます

【アレンルート】魔術師アレンは目立たない

【番外編】魔法師アレンは目立たない

 魔法師アレンは目立たない。

 アレンは、アーネスト国の王室直属魔法師だ。その実力は高いにも関わらず、本人が目立つことを嫌がるため、華やかな席には出席しない。ゆえに彼の社交界における知名度は低かった。

 アレンと対面した時、ほとんどの人は彼に強い印象は抱かないだろう。

 暗い赤色の髪に、暗い青の瞳、そばかすの浮いた地味な顔立ちは、どこにでもいるような男という印象しか与えず、普通はすぐに忘れてしまう。多少口は悪いが、初対面の人に口の悪さを発揮する訳でもない。

 本人も目立つことを良しとしなかった。だから、『目立たない男』という評価は、彼の望むものだったのだ。王宮での立場は、良くもなく、悪くもない。居心地の良いものだった。

 魔王討伐のメンバーに選出されてしまったことは、アレンにとって想定外ではあったが、大人数での旅ではないから我慢することにした。

 加えてアレンの他には顔の整った第一王子ミヒャエルとホルストの第三王子カイルがいるのだから、聖女も含めたメンバーの中で、地味なアレンが目立つ筈もない。せいぜい死なないよう気をつけようと思うだけだ。

 しかし、聖女カナエは、そんなアレンのことを放っておいてくれなかった。以前から時々、視線を感じていたが、この頃は特に意味ありげな視線をアレンに寄越す。

 彼女は討伐メンバー全員と親しくしている。旅が進むにつれ、ミヒャエルと一番仲良くしているようには見えるが、地味なアレンに対しても彼女は、時々の視線を除けばいつも平等だ。

 たどり着いた宿で、夕食をとりおえ、部屋に移動する時のことだ。いつものように意味ありげな視線をアレンに向けていたかと思えば、決意を固めた顔でアレンに走り寄った。

「いつも思ってたんだけどさ……アレン、そのローブいつ洗ってるの?」

 カナエがアレンのローブの端を掴んだ。その顔はごく真剣である。どうやら視線はローブに注がれていたらしい。
「……適当に洗ってるよ」

「離してくれない?」

「今日洗おうよ。さっき店員さんが飲み物こぼして濡れてたよね?」

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