乙女ゲームのメインヒーロー、なぜかヒロインから溺愛周回攻略されてます
 ローブを持ち上げながらカナエが呻く。

「ごめん、ちょっと手伝って」

 手招きをするカナエに、アレンは素直に従って絞るのを手伝う。

「アレンの素顔ってほんと綺麗だねえ」

 その声音は、花でも愛でるような調子で、色を含んだものではない。アレンはまたため息を吐いて、手を止めた。
「……この顔のせいでちょっかいをかけられる身にもなってみろ」

「あ~そういうこともあるのか。美形も辛いね」

 絞り終えるとローブをぱたぱたと振ってから、カナエは「でも」と続けた。

「そんな隠さないといけない程、やばいかな? 私的にはアーネスト様の方が美形っていうか、かっこいい気がするけど、アーネスト様は顔隠してないじゃん?」

「は?」

 アレンは今、生まれて初めて、容姿について誰かより劣っていると言われたのだ。面食らって変な声が出ても仕方あるまい。ミヒャエルは金髪碧眼で、素顔のアレンと並ぶと丁度月と太陽のような見た目だ。並べれば甲乙つけがたい筈だが、カナエはミヒャエルの方が良いと言うのは、驚くことだった。

 それにミヒャエルの顔がいかに麗しくて、周囲の人間が煩わしくとも、彼は王族である。顔を隠して生活することが許される筈がない。だから比べるべくもないのだが、彼女はそんなことを思いも寄らないらしい。

「僕の方がミヒャエル様より不細工ってこと?」

 その声は、かろうじて笑いをこらえていたと思う。

「えっそんなこと言ってないじゃん! いや、まあ、あのアーネスト様の方が派手? というか……」

「僕の方が地味で目立たないんだ?」

「いやそうじゃなくて……もう! とにかくアーネスト様の方がかっこよく見えるってだけ! あれ、私何言ってんの、何言わせてんのばか!」

 目をぐるぐるとしながら顔を真っ赤にしたカナエが、ローブをアレンに投げつける。それが面白くて、とうとうアレンは笑いがこらえられず吹き出してしまった。

「あんたミヒャエル様しか眼中にないんだね」

 ケラケラ笑いが止まらないアレンを「うっさい」と膨れてカナエは不貞腐れる。

< 50 / 66 >

この作品をシェア

pagetop