乙女ゲームのメインヒーロー、なぜかヒロインから溺愛周回攻略されてます
 自分の素顔を知っても、なお、他の男の方が美しく好ましい顔だなんて言うのは、アレンにとって正直とても面白かった。好きな男のことは、それだけ格好よく見えるという話なのだろう。

「ローブ洗ってくれてありがと。洗い方知らなかったんだよ」

 何とか笑いをおさめてから、アレンは外套かけにローブをかけて言う。王宮仕えのアレンは、貴族なのだから洗濯などしたことがなくて、実は困っていたのだ。

「そういうことは早く言いなよ……洗い方次は教えてあげるね」

 呆れたカナエがため息をついたのを、アレンは笑う。

「よろしく。あんた、結構信用できそうで良かった」

「半年も一緒に居て、今更?」

「まあ仕方なくない? 僕人見知りだしね。やっと安心したよ」

 しれっとアレンは言って、心の中でだけ『僕のこと好きにならなさそうだしね』と加える。

「アレンってこんな胡散臭い奴だったの?」

「結構失礼なこと言うよね、あんたも」

「お互い様じゃない?」

 そう返されて、アレンはまた笑った。

 きっと、カナエの中では魔法師アレンの印象は多少変わっただろうが、悪いことではない。ローブを被っていてもいなくても、恐らく彼女の態度が変わることはないのだろう。カナエにとって魔法師アレンは、目立たない奴で居られるのだ。その事実が、何故だかアレンの頬を緩ませるのだった。
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