乙女ゲームのメインヒーロー、なぜかヒロインから溺愛周回攻略されてます
「……ミ、カ……足、早すぎ……っ」

 ばたん、と大きな音を立てながらドアが開いたかと思えば、息を切らしたカナエが執務室に入ってきた。どうやらカナエは走って来たらしい。

「そんなに息を切らしてどうした」

 つい、彼女にかける言葉が冷たくなる。自分を追いかけて走ってきたことなど、わかりきったことなのに。

「ちょ、っと……待って」

 肩で大きく息をして、しばらくカナエは深呼吸をした。

「はあ……さっきの、聞いちゃった?」

「何がだ?」

 声の温度が更に低くなった。彼女には優しくしたい。しかし、今は冷静さを装うのが精一杯だった。

「偶像として、って奴……」

 判っているのに、わざと聞くというのか。

「何の話か判らないな」

「あの、違うんだよ。ミカ、誤解しないで聞いて欲しいんだけど」

「……お姫様、申し訳ないんだけど、手が離せないんだよ。察してくれないかな?」

 わざとにっこりと微笑んで、王子様の仮面を被る。するとカナエは顔を赤くした。やはり『乙女ゲームとしてのミヒャエル』が好きなのか。心の中だけで嘆息する。

「待って、話を」

「君の言う誤解というのが、何のことか判らないけれど。君は私が丁寧な物腰でいる方が好ましいんだろう? 何、構わないよ。上辺の愛でも国母にはなれるからね」

「やっぱり勘違いしてるでしょ、その反応」

 カナエは大きなため息を吐いた。そうしたいのは私だというのに。

「あのね、どこから聞いてたのか知らないけど、私は、ミカのこと、男の人として……」

 そこまで言って、少し目を反らしてカナエは更に顔を赤くした。

「す、好きだよ」

 恥ずかしい、と言いながらパタパタ自分の顔を扇いで、カナエはまた深呼吸する。

 本人の居ない所で語られた言葉と、目の前にして言い訳のように語られる言葉。普通ならどちらを信じるというのだろう。

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