乙女ゲームのメインヒーロー、なぜかヒロインから溺愛周回攻略されてます

【ミヒャエルルート】何度でもあなたに恋をする(後)

【番外編】何度でもあなたに恋をする(後)

「乙女ゲームごっこの前、から?」

 私の上辺だけを愛しているのではない。彼女はそう言っているのだろう。それは判る。しかし、もはや問題はそこじゃない。

 常に時間を逆巻いていたから、私意外の人間の記憶はなくなっている筈なのだ。そもそも、ゲームになる前の魔王討伐は、『カナエが死んだ』世界は、なかったことになっている。まさか、彼女にはゲームになる前の世界の記憶があるとでも言うのか。しかしそうとでも考えなければつじつまが合わない。なぜなら『乙女ゲームごっこ』という名前は、はじめの魔王討伐の旅で彼女が使った言葉だからだ。

 私の雰囲気が変わったのを察したのだろう、カナエは笑いをおさめて私の表情をうかがうように、真剣な顔をして、二歩、三歩と近づいてきた。

「……ちゃんと確認してなかったんだけどさ、ミカが私と出会ったのは、1周目のゲームが初めて? それとも、その前の記憶はある?」

「その前?」


 思わずオウム返しに聞き返してしまった。

「この世界って、魔法で乙女ゲームになってたんでしょう? でも今はその魔法も解けてて。私は『ゲーム』としては10周してその記憶もちゃんとあるけど、周りの皆はゲームだって認識もないし1周分の記憶しかないよね。でも、ミカは? ミカだけはゲームって判ってて、10周分の記憶あるんだよね?」

「ああ」

「じゃあ、その前は?」

「……乙女ゲームのヒロインとして、カナエ以外のヒロインが来ていたことも覚えているが……」

「そうじゃなくて。この世界が、ゲームになる前の記憶」

 その質問で、確信する。やはり彼女は、最初の魔王討伐を覚えているのだ。

「……覚えている」

 私は、あえて、どうしてこの世界をゲームに作り変えてしまったのかを、カナエには告げていなかった。

 私がどうして魔力の暴走を起こしたのかについて話せば、必然的に一番最初に魔王討伐の際にカナエがどうなったのかを告げなくてはならない。

「そっかあ……」

 カナエは俯いて、「じゃあ」と呟く。

「私が一度死んだのも、覚えてるんだね」

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