乙女ゲームのメインヒーロー、なぜかヒロインから溺愛周回攻略されてます
 カナエの声は、どこまでも優しい。抱きしめ返して、大丈夫だろうか。彼女が傍にいることに舞い上がり、些細なことでへそを曲げ、今もなおトラウマに縛られた私が、この期に及んで彼女を腕に閉じ込めていいのだろうか。

「それに前に言ったでしょう?」

 私の胸に顔を埋めていたカナエは、私を見上げて笑った。

「死が二人を分けてしまっても、愛を誓うって。この世界がゲームでも、ゲームじゃなくても、死んでしまっても、また私はミカのとこに帰ってきて、何度でもミカに恋をするよ」

「そう、か……」

 10周目のエンディングで彼女が告げていたのは、最初からこのことだったのだ。最初の旅で死に別れたが、彼女は戻ってきてくれたのだと、教えてくれていた。

「そうか……」

 目を伏せると、暖かい滴が零れ落ちた。それはとめどなく、溢れてくる。私はそれを見られないように、カナエを抱きしめて肩に顔を埋める。もうばれてしまっているかもしれないが、彼女のぬくもりを感じていたい。

「うん。えっと、それでね……あの、王子様モードじゃない時も、ちゃんと好きって言うね。上辺じゃないんだからね! 好きなのは!」

 ギュっと背中を更に強く抱きしめられて面を食らう。

「ああ。よく、判った」

 つい笑ってしまったが、カナエは怒らなかった。カナエといると、感情が忙しい。

 やはり、私はカナエのことになると馬鹿になってしまうらしい。それでも彼女は私の隣に居てくれるようで、ありがたい。これではどちらが守られているのか判らないが、それもいいだろう。

 カナエが、隣に居てくれるのなら。
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