完璧な嘘、本当の愛

施設での約束

S.M.F児童養護施設。施設の庭。夕暮れ。
春菜と遠島は、ボランティアとして訪問していた。今日も、利用者の子どもたちへの学習支援を行った。春菜が立ち上げた教育支援プロジェクトの一環だ。
子どもたちは二人を「優しい大人」として慕っていた。二人の夫婦関係を知る者は、この施設の職員たちだけだ。
授業が終わり、子どもたちが帰った後。二人は施設の庭に立つ。
夕日が沈み始めていた。空がオレンジ色に染まる。その光の中で、遠島は春菜の手をそっと握った。
「ありがとう」と遠島が言った。その言葉は、今日の活動への感謝ではなく、春菜が自分を選んでくれたことへの感謝だった。
春菜は彼を見つめた。彼の眼差しは、究極の溺愛と優しさに満ちていた。
「君がいれば、僕の過去も意味がある。全てが報われる」と遠島は囁く。
その言葉の重さ。その言葉の深さ。春菜の心を揺さぶった。
「私たちの秘密、ずっと守ろうね」と春菜は返した。
遠島は彼女の頬にキスをした。その唇の温度が、彼の深い愛を物語っていた。
施設の壁を見ると、かつて遠島が少年時代に描いたであろう絵が貼られていた。希望の光が描かれた絵。青い空と、その中で輝く太陽。
二人の姿が、その絵と重なる。
風が吹く。二人の髪がなびく。だが、二人の手は強く握られたままだ。
夜が訪れようとしている。だが、二人の心には、光がある。秘密を共有する二人だけの光。それは、完璧さではなく、本当の愛だ。
親の期待も、社会的な枠も、もはや二人の足を引っ張ることはない。二人は、自分たちが決めた人生を歩んでいる。
その人生は、完璧ではない。だが、本物だ。
遠島は春菜を強く抱きしめた。「ずっと、一緒だ」と彼は言った。
春菜は彼の胸に顔を埋めた。「ずっと」と彼女は返した。
星が見え始める。施設の庭に、二人の影が落ちている。その影も、また、一つに融合している。