完璧な嘘、本当の愛

親への決意と新しい人生

実家での食卓。日曜日の夜。
春菜は、両親と向かい合って座っていた。いつもと変わらない食事風景。だが、春菜の心は、これまで以上に落ち着いている。
食事を終えた後、春菜は言った。
「お父さん、お母さん。話があります」。
その口調から、両親は、ただ事ではないことを察した。
「私の人生を歩みます。親の期待ではなく、自分の人生を」と春菜は言った。
父は眉をひそめた。母は不安そうな表情になった。
「何か具体的な計画はあるのか」と父が聞く。その声には、怒りはなく、ただ警戒があった。
「はい。職場で教育支援プロジェクトを立ち上げます。経済的困難を抱える家庭の子どもたちへの学習支援です」と春菜は答える。
「それは……恋愛の影響か」と父が問う。
春菜は、その質問に躊躇しなかった。
「はい。自分を見つめ直すきっかけをくれた人がいます。その人と共に、社会に貢献したい。そう思うようになりました」。
母が目に涙を浮かべた。
「お母さん……」と春菜が言った。
「自分の人生か……」と母が呟く。「本当に望むことなんだね」。
「はい。本当です」と春菜は答える。
父は、長い間、春菜を見つめた。やがて、深くため息をついた。
「わかった。応援しよう」と父が言った。「お前が決めた道ならば、俺たちは応援する」。
その言葉が、春菜の心に深く落ちた。初めて、親から真の承認を得た。親の枠ではなく、一人の大人として認められた。
「ありがとうございます」と春菜は言った。その感謝の言葉は、形式的ではなく、本当の感謝だった。
母は春菜に抱きついた。「幸せにね。自分のやりたいことをやってね」と母は言った。
その抱擁の中で、春菜は初めて、親の期待ではなく、親の愛を感じた。
帰り道。春菜は遠島にメールを送った。「親に話しました。応援してくれるそうです」。
遠島からの返信は瞬時だった。「本当? 良かった。俺たちの人生、一緒に作ろう」。
春菜は、その言葉を読んで、微笑んだ。本当の人生が、今、始まろうとしていた。
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