好きな人、いるよ
昇降口を出ると、雨はさらに強くなっていた。
傘の内側に細かい粒が跳ねる。
歩道の水たまりには街灯が映り、靴で踏むたびに光が揺れた。
「濡れるだろ、もう少しこっち寄れ」
陽介が蓮の方に傘を傾ける。
蓮の肩が陽介に触れる。
すぐに離れようとするけれど、傘の下では逃げ場がなくて、二人の影が一つになった。
トランペットケースが濡れないように、蓮の方に傘を寄せる陽介の気づかい。
蓮はそんな小さな気づかいでも、たまらなく嬉しくなってしまう。
──それを陽介に見透かされたら、困るくせに。
沈黙が長く続く。
雨の音が会話のかわりに流れていく。
車のライトが一瞬二人を照らして、また暗がりに戻る。
「……お前、好きな子いる?」
突然、陽介が口を開いた。
いつもより少し早口だった。
「……え?」
「いや、ちょっと女子に聞いてくれって頼まれたんだ」
たったその一言で、蓮はすべてを理解してしまう。
陽介の言う女子が誰の事かなんて、聞かなくても分かった。
陽介にそんな面倒ごとを引き受けさせることができる、たった一人の女子。
──美咲に好かれている自分。
美咲を好きな陽介。
そしてこんなに近くに居ても、陽介に好きだと告げられない自分。
胸の奥がひどく静かになる。
悲しい、というより、ただ現実に戻っただけの感覚。
心は震えるのに、それでも声は穏やかに出せた。
「好きな人……いるよ」
陽介が一瞬だけこちらを見る。
街灯の光が眼鏡に反射して、その表情は読めない。
「……そうか」
また沈黙。
傘を叩く雨音が、すこしだけ強くなった。
蓮はその音を聞きながら、家までの道がずっと続けばいいのにと思った。
──ただ黙ってそばに居る。
それがこんなにも苦しくて、甘いのに。
傘の内側に細かい粒が跳ねる。
歩道の水たまりには街灯が映り、靴で踏むたびに光が揺れた。
「濡れるだろ、もう少しこっち寄れ」
陽介が蓮の方に傘を傾ける。
蓮の肩が陽介に触れる。
すぐに離れようとするけれど、傘の下では逃げ場がなくて、二人の影が一つになった。
トランペットケースが濡れないように、蓮の方に傘を寄せる陽介の気づかい。
蓮はそんな小さな気づかいでも、たまらなく嬉しくなってしまう。
──それを陽介に見透かされたら、困るくせに。
沈黙が長く続く。
雨の音が会話のかわりに流れていく。
車のライトが一瞬二人を照らして、また暗がりに戻る。
「……お前、好きな子いる?」
突然、陽介が口を開いた。
いつもより少し早口だった。
「……え?」
「いや、ちょっと女子に聞いてくれって頼まれたんだ」
たったその一言で、蓮はすべてを理解してしまう。
陽介の言う女子が誰の事かなんて、聞かなくても分かった。
陽介にそんな面倒ごとを引き受けさせることができる、たった一人の女子。
──美咲に好かれている自分。
美咲を好きな陽介。
そしてこんなに近くに居ても、陽介に好きだと告げられない自分。
胸の奥がひどく静かになる。
悲しい、というより、ただ現実に戻っただけの感覚。
心は震えるのに、それでも声は穏やかに出せた。
「好きな人……いるよ」
陽介が一瞬だけこちらを見る。
街灯の光が眼鏡に反射して、その表情は読めない。
「……そうか」
また沈黙。
傘を叩く雨音が、すこしだけ強くなった。
蓮はその音を聞きながら、家までの道がずっと続けばいいのにと思った。
──ただ黙ってそばに居る。
それがこんなにも苦しくて、甘いのに。