【十六夜月のラブレター another side】イケメンエリート営業部員入谷柊哉くんは拗らせすぎてる
「送ってくよ」

「いい。あたし、もう柊哉先輩のことは本当に忘れるね。それじゃ……」

涙を流したまま雪見ちゃんは出て行った。

追いかけることはしなかった。

あの時彼女に雪見ちゃんと付き合うと言ったのは、ただの当て付けだったから。

最初から誰とも付き合う気なんてなかった。

一人でバーを出る。

まだ飲み足りなくて、コンビニで缶ビールの6本パックを買って帰宅した。

テーブルの椅子に座って缶ビールを一気に飲む。

こういう時、母親譲りの自分の酒の強さが嫌になる。すぐに酔って何もかも忘れてしまえればいいのに。

向かいのはじめて彼女がここに来た時に座った空の椅子を見る。

ここで彼女の頭をぽんぽんしたなあ。

一緒に荷解きしたり、壁ドンみたいなことをしたり……。

この部屋に棲み付く亡霊のように、彼女が思い出されて切なくなる。

もうあんな時間は二度と来ない。

でも俺の「好き」は、「嫌い」にならなかった。

なんだよ、「好き」なんていう感情、信じてなかったのに。

嫌いになりたいのに、嫌いになれない。

嫌いになるどころか、もっと彼女が好きだと思うだけ。

倒れたビールの空缶がテーブルの上を転がっていく。

止めることもせずにぼんやり見ていると、インターフォンが鳴った。

誰だ? こんな時間に。もう22時過ぎてるぞ。

椅子から立ち上がりインターフォンのカメラを見る。

映っているのは彼女だった。
< 41 / 47 >

この作品をシェア

pagetop