メリーでハッピーなトゥルーエンドを
「いや、カナを庇ってレイが死んだだろ。そのオリジナルの結末をありのまま伝えただけだ。別に俺があいつを煽ったわけじゃねぇよ。ただの事実だ」
「そうかな。きみは悪魔なんだろ。魂をもらうために焚きつけたかもしれない」
「ある程度はそうかもな。けど、俺としては誰が死ぬかなんてどうでもいいってさっき言っただろ。運命を変えようとかカナを救おうとか、そういうのは俺じゃなくてあいつの意思だ」
柊先輩としては、郁実と天使側が敵対するよう、御影がそそのかして仕向けたと踏んでいた節があったのだろう。
だけど、きっと御影の言葉に嘘はない。
すべてを知った郁実がそういう選択をするのは、記憶がなくても何度も同じ判断を下すのは、想像にかたくなかった。
彼はそういう人だから────。
「……でも、そっか。昼休みにふたりともいなかったのはそういうことなんだね」
「ああ。つまり巻き戻った朝の時点では、イクミは何も知らない。昼休み以降は俺が教えたあとだからぜんぶ把握してるけど、記憶があるとは言えねぇな。取り戻すんじゃなく伝えるだけだから」
だけど、腑に落ちた。
ふいの出来事に見舞われても、郁実が毎回、寸分の狂いもなくわたしを庇うことができていたのは、だからだったんだ。
これから起こることを知っていた。
わたしが命の危険に晒されると分かっていたから、守り抜くという強い覚悟を決めていたから、あんなに迷いがなかったんだ。
あたたかくほどけた心が震える。
救うどころか、わたしはずっと郁実に守られ続けていた。
(でも、だめだ……。これじゃだめ)
郁実を悪者にして、犠牲にしてまで、生きる価値なんてわたしにあるんだろうか。
そんなふうにして迎える明日に意味なんてあるのだろうか。
(わたしは嫌だ)
郁実にすべてを背負わせたままのうのうと生きていくことはできない。したくない。
そんな結末は到底受け入れられない。
「……春野さん」
はっと我に返る。
思わずうつむいて両手を握り締めていると、十分に間を置いてから柊先輩に呼ばれた。
「状況はよく分かったよ。でも……きみには悪いけど、玲を救うためなら俺は同じ選択をする。何度繰り返しても」
言葉通り、迷いも躊躇もとっくに捨て去ったような澄んだ顔をしていた。
晴れないけれど、曇ってもいない真剣な表情。
玲ちゃんのために“今日”もわたしを殺す、という宣言にほかならない。