メリーでハッピーなトゥルーエンドを
昼休み、ふと教室を出ていった郁実を認めた。
きっとこのタイミングを見計らって、いつも御影は彼と接触していたんだろう。
「郁実」
追いかけるようにして廊下に出ると、足を止めた彼が振り向く。
その横にはいつの間にか御影の姿もあった。
◇
「タイムリープ……」
小さく呟いた郁実の声が不安定に揺れる。
ひとけのない裏庭ではやけに響いて聞こえた。
「まったく……今回だけ特別だぞ」
黒い手袋をつけ直しながら億劫そうに言う御影。
彼の背後でカラスが飛び立っていった。
「郁実、本当に思い出したの?」
「……うん、ぜんぶ」
「だから言ってんだろ、俺に不可能はねぇよ。ちゃーんと取り戻してやったぞ、イクミにも。最初から砂時計が壊れるまでの記憶と、カナが繰り返してる“今日”のこと」
そう得意気に言ったかと思うと、一転して不満そうに口を曲げる。
「退屈になりそうで気乗りしなかったんだけどな」
「そうはならないでしょ? “今日”は、たぶん」
「だな。だから取り戻してやったんだ」
御影はにやりとわたしの言葉に頷いてみせる。
無論、最後だから、という意味だけれど、それに気づいたのか郁実の瞳がゆらゆらと揺れた。
「ちょっと待って。……僕はまだ飲み込めてない。納得もできないし信じられない。まさか、花菜にも砂時計を渡してたなんて」
「予想以上に面白いもん見せてもらったぜ。最後まで飽きることもなさそうだ」
「軽々しくそんなこと言うな! 最後って……“今日”、必ず誰かが死ぬってことだろ。僕か、花菜か、あの子か」
余裕を失った郁実の声がわたしの心を締めつけた。
その通りだ。
誰が命を落としてもタイムリープは終わり。
郁実が死んだら絶対に巻き戻さないといけないし、わたしが死んでも当然おしまいだ。
玲ちゃんが亡くなったら柊先輩が砂時計をひっくり返すだろうけれど、御影の話によると、それだと彼らの時間軸に閉じ込められて悪魔の砂時計は使えなくなる。
────“今日”、どんな結末を迎えても、もう覆すことは叶わない。
そんな重い認識が降りてくると、逆に不思議と力が抜けた。
「郁実は……どこまで優しいの?」
「え? なに、言って……」
「郁実が死ぬことなんてないよ」
最初の結末を思えば、運命として必然的に亡くなるはずなのはわたしか玲ちゃんのどちらか。
それなのに、自分までもを選択肢に入れたのは────ひとえにわたしのためでしかない。
最後の最後まで諦めるつもりはないんだ。
命懸けで覚悟を貫くつもりでいる。
(わたしは、それでいいの?)