メリーでハッピーなトゥルーエンドを

 薔薇の鮮やかな赤色が視界を裂いた。
 体温を失って冷えたてのひらから、砂時計ごと凍りついていく気がしてくる。

 わたしのこの判断は、郁実の覚悟をないがしろにしていると言われても(いな)めない。
 郁実に対する裏切りとさえ取れる。

 彼にどんな顔をさせてしまうか、どんな思いに晒してしまうか、見当もつかないわけじゃなかった。

「そうか?」

 また淡々と受け流されるだけだと思ったのに、意外なことに御影は反応を示した。

「無駄にも無意味にもならねぇよ、おまえがそう感じない限り。おまえにとってもイクミにとっても、価値のある時間だっただろ?」

 うまくいかないことの方が多かったけれど、確かにそれはそうだった。

 この日々があったからこそ知れたこともあるし、郁実の覚悟や優しさに触れたのだってそのお陰だ。

 こんなにも彼が近かったのは、幻の上にある“今日”が初めてだと思う。

 気づいたら、手の強張りがほどけていた。
 ふわふわしたうさぎの懐かしい手触りが、指先に触れたような錯覚を覚える。

「……うん。“今日”がなかったら、郁実はもっと遠い存在になってたと思う。あんなことがあって、繰り返した分だけ郁実に向き合えた」

 正確には、郁実に対する感情に、かもしれない。
 気づいたのは彼のことばかりじゃなかった。

「そりゃよかったな。そろそろ俺を崇拝(すうはい)したくなっただろ」

「そんなわけないでしょ。でも、感謝はしてる。ありがとう」

 つい気が緩んで、また小さく笑った。

 改めて不思議だった。
 この性悪の悪魔に、いつの間にか安心感すら覚えていることが。

 (よど)んでいた感情を言葉にしたからか、御影と話したからか、いまは心も思考もすっきり澄んでいた。

 とめどない葛藤(かっとう)に終止符を打たないと。
 出すべき結論も向かうべき結末も、既に見えている。

 あとはただ、受け入れる覚悟を固めるだけ。
 わたしの選んだ答えを形にするだけだ────。



     ◇



 一瞬のようにも永遠のようにも感じられる時間が過ぎて、放課後を迎えていた。

 事前に示し合わせていた通り、裏庭で柊先輩と落ち合う。
 そこには真白先輩の────天使の姿もあった。

 昼休みにここへ足を運んだときより、(こずえ)もカラスも何だか濃い影を帯びているような気がする。

「……俺も、ひとつ決めたよ」

 先に口を開いた柊先輩の手には、青い薔薇の咲く砂時計があった。

「きみと一緒に“今日”を最後にする。俺の選択は何があっても変わらないけど、どんな結果になってももうこれは使わない。それが……春野さんへの最大限の誠意で、これまでしてきたことの(あがな)い。そうしなきゃいけないと思う」

「先輩……」
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