メリーでハッピーなトゥルーエンドを

 意外に思ったけれど、妙に納得のいく判断でもあった。

 彼は確かに、身勝手にもわたしに手をかけたし、間接的に郁実のことも死に追いやった。

 それでも、根にあるのは妹を救いたい気持ちだけで、一線を越えたからって悪人になったわけじゃない。

 自分のしたことは間違っていないと信じているけれど、その責任をきちんと取ろうとしてくれている。
 誠実な柊先輩らしかった。

「そんな必要はないって言ったのに」

 ふと、真白さんが不服そうに口を挟む。
 彼女もまた、わたしが死ぬ結末を正しいと信じて疑っていないからこそだろう。

「……答えを出す前に聞いてもいい? あなたは、どうして柊先輩に協力したの?」

 彼女の澄んだ瞳がわたしを捉えた。
 さら、と金色の髪がなびく。

「わたしは天に仕える身。だから、すべては神の御心(みこころ)に従ったまで。正しい運命のもと、余計な犠牲者が出ないようにしたい……それが神の意だったから」

 天使である彼女自身の意思ではなかった、ということだ。
 それでも、ところどころで見せた行動には温度のある感情が覗いていたように思う。

「彼に砂時計を貸すよう命じたのも神にほかならない。不届き者が現れたから、平等にね」

 ため息混じりにそう続けられ、自ずと頭の中にひとりの姿が浮かんだ。
 想像でさえ、にやりと面白そうに笑っている。

 とはいえ、真白さんの言い分がそういうことなら、何となく全容を掴むに至った気がした。

 彼女の言葉通りなら、天使は悪魔とちがって基本的に主体性のない存在。
 神さまはそんな天使を(つか)わして見極めたかったのかもしれない。

 誰が生きるべきで、誰が死ぬべき運命なのか。
 わたしたち人間を試している。

(それなら、この場合の選択肢はやっぱり、わたしと玲ちゃん……?)

 元のシナリオを考えれば、きっとそうだ。
 だけど、試されていたのはわたしたちだけじゃない。

 郁実と柊先輩。
 ふたりが“鏡”みたいに相容(あいい)れないことからして、彼らもまた選択の支柱だった。

 いずれにしても、神さまは最終的に“正しい運命”というものに導く役目なのだろう。
 神さまがそうだから、天使である真白さんもそれに固執(こしつ)しているんだ。

「天使の砂時計って、悪魔のものとは何がちがうの?」

 時間を巻き戻す力があることは同じでも、細かい効果にちがいがあると御影は言っていた。

「それ、俺も気になってた。彼らの方はひっくり返すと並行世界に移るって話だったけど」

 柊先輩が言葉を繋ぐと、真白さんは目を伏せた。
 静かに間を置いてから口を開く。

「……分かりやすいちがいは、薔薇が回復すること。わたしの砂時計は、目的を果たすことで枯れた薔薇が咲き戻る。でも、巻き戻すたびに身体に負荷がかかって(むしば)まれてく。それは、人間が不可逆性を(おか)す代償とも言える」
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