メリーでハッピーなトゥルーエンドを
はっとして思わず柊先輩を見上げた。
彼の顔色が悪いのは、もしかしなくても先行きの不安ばかりが理由じゃなかったのかもしれない。
その手元にある砂時計の薔薇は確かに減っている。
巻き戻した対価を払ったことで、大げさじゃなく命を削られたんだ。
「どうかした?」
神妙に見つめるわたしに気づいたのか、彼が小さく首を傾げる。
「いえ……。わたしの方には、そんな代償ないから」
だけど、代償そのものがまるきりないわけじゃない。
崩壊した世界の欠片が降る中、深淵の常闇に飲まれていく恐怖。
果てしないあの感覚を味わうことが一種の代償だと、御影も最初に言っていた。
「そうなんだ。悪魔の方が案外優しいのかな」
「それはないです。契約したら最後には魂ごと奪われますし」
「ああ……それは嫌だな。今朝、うっかり契約しなくてよかった」
肩をすくめて苦笑する先輩に、思わずふっと笑ってしまう。
そんな余裕がある自分に傍らで少し驚いた。
「それで、この砂時計でのタイムリープは、正確には何が起きてるの?」
「話しても仕方ない」
柊先輩が向き直って尋ねるも、真白さんの反応は淡いまま。
慣れた様子で彼は笑う。
「最後くらい、そんなこと言わずに教えてよ。減るものじゃないでしょ」
それを受け、彼女は伏し目がちに瞬いた。
気乗りしないながらも諦めたように話し始める。
「単純だよ。タイムリープのイメージそのまま、同じ一直線上の時間軸を移動してるだけ」
「なるほど……。だから“再生”なんだ」
今朝、柊先輩が口にしていたことを思い返した。
彼も仕組みを知らなかったことからして、終末の光景から受ける印象を、そのまま言葉にしただけだったのだろうけれど。
セーブファイルにたとえるなら、こちらはひとつのファイルをリセットして何度もやり直しているということになる。
ファイルそのものじゃなく、データを。
「そうか、そういう仕組みのちがいなら悪魔の言ってたことも理解できた。この砂時計だけをひっくり返すと、悪魔側も天使の時間軸に閉じ込められる。それって、時間軸が天使基準に統合されるってことだよね」
「悪魔の時間軸の法則が通用しなくなる……」
柊先輩の結論を聞いて、わたしは呟いた。
だから御影の方も合わせて砂時計をひっくり返す必要があったのだと、改めて納得がいった。
「逆はどうなるんだろう? 悪魔の砂時計だけをひっくり返したら」