メリーでハッピーなトゥルーエンドを
「そのときは、わたしたちも自ずと分岐した並行世界に移る。でも、そこにはまた天使と悪魔、ふたつの時間軸が存在してるから……こっちが合わせて砂時計をひっくり返す必要はない」
「そうだったんだ。確かに……勝手に時間が巻き戻ったとき、砂時計をひっくり返さなかった」
柊先輩の言う“勝手に時間が巻き戻ったとき”というのが、郁実が御影の砂時計を使ったときなんだろう。
なるほど、と合点がいった。
悪魔側のタイムリープは世界線ごと移動しているのに対し、天使側の砂時計は時間軸のみの移動。
だから、このようなちがいが生まれるわけだ。
「満足? 知ったところで何にもならないのに」
真白さんは変わらず淡々としていた。
冷たいわけじゃなく、感情が乏しいのだと思う。
天使が主体性を持たないからそうなのか、彼女の特性なのかは分からないけれど。
「それはそうだけど、分からないまま終わるよりすっきりするから」
「うん、俺も。興味深いよ。タイムリープなんてとても非現実的な現象なのに、こんなふうに理屈が通ってるとは思わなかった」
ね、と首を傾げられて頷く。
確かにその通りだった。
どちらの砂時計がより優れているとか、そういう話ではなく相互作用があるわけだ。
それにしても、とついまじまじと彼を見つめてしまう。
当初のことを思えば、柊先輩とこうして以前のように普通に話していることそのものも、何だか不思議な感じがした。
殺意が和らいだわけではもちろんないのだろうけれど、そこに悪意がないことは重々承知している。
だからこそ、素直に嫌うことも憎むこともできなくなっていた。
「柊先輩は……最後、どうなるんですか?」
「タイムリープが終わったら、って意味だよね? とりあえず、砂時計は真白さんに返すことになってる」
「そう。そしたら、砂時計やタイムリープにまつわる記憶が彼の中からすべて消える。役目を終えたわたしは神のもとへ帰るの」
どうやら、砂時計そのものは借りものという扱いみたい。
真白さんが淡々と続ける。
「そのとき、神の意に従って生者と死者の帳尻合わせをすることになる」
それはつまり、生きるべき者と死ぬべき者────それを見定めた結果、場合によっては天使自らが人の命を奪うこともあるということだ。
いまさら驚くこともなかった。
一度、わたしを虚空から突き落としたことも、思えば“帳尻合わせ”の一環だったのかもしれない。
いずれにしても、砂時計は“猶予”であり、天使も悪魔もそれを人間に与えているに過ぎないんだ。
どうしてそんなものを与えるのか、いまなら想像が及ぶ。
天使は神の意に則って人間を試している。
悪魔はただ、面白がっている。
どちらにしても、タイムリープは可能性の模索。
砂時計は万能アイテムじゃないし、救済の保証じゃない。