メリーでハッピーなトゥルーエンドを

「あれ……? でも、ちょっと待って」

 ふと萌芽(ほうが)した違和感が胸を掠めていく。
 薄い表情の真白さんを見やった。

「目的を果たすと薔薇が回復するって言ったよね。それって、わたしを死なせること?」

「簡単に言えばそう」

「じゃあ、神さまもそう思ってるの?」

 天使が神の(つか)いなら、命運を分ける“目的”は神さま自身の意思なんじゃないだろうか。

 そう思い至ったものの、真白さんはゆったりと首を横に振った。

「それはあくまでわたしの意見。砂時計そのものもわたしの所有物だから、薔薇が回復する基準はわたしの目的に依存する」

 つまり、わたしが死んで玲ちゃんが生きる結末を“正しい運命”だと支持しているのは、真白さん個人に過ぎないんだ。

 だから積極的にわたしの命を狙って、わたしの死を目的に動いてきた。
 砂時計の持ち主が彼女なら、当然、わたしが死んだら薔薇が咲き戻ったことだろう。

 そして、だからこそ柊先輩に手を貸したんだ。
 彼もまたそれを願っているから────。

「今回だって例外じゃない。最後だとか、わたしには関係ないから」

 ひときわ凜と澄んだ彼女の声が響く。
 深すぎて見通せない瞳に捕まると、ぞくりと背中が冷たくなった。

「でも、もう巻き戻せないなら……これでようやく決着をつけられそう」

 ふと、真白さんは右手をもたげて掲げた。

(あ……)

 既視感が危険信号みたいに身体の内側で明滅(めいめつ)する。

 瞬いた瞬間、唐突に虚空へ投げ出されていたあの奇妙な現象。
 なすすべなく落下していく恐怖と、全身を貫いた激痛までありありと思い出して息をのんだ。

 彼女が指を鳴らしたらきっと、また────。

 そのときだった。
 真白さんの腕に突然、棘だらけの(つた)が絡みついた。

(え?)

 どこから現れたのか縄のようにしなり、鋭い棘が彼女の白い肌を破ろうとしている。
 それでも、真白さんはやっぱり顔色を変えない。

「何だこれ……」

 驚いたのはわたしだけじゃなく、柊先輩も同じようだった。

 衝撃に明け暮れていると、はら、と目の前を赤い何かが横切っていく。

 薔薇の花びら。
 散って落ちたそれを認めた途端、気づけばその名前が口をついていた。

「御影……?」

 応じるようにわたしの背後で気配がした。

 いつの間に、いつからいたのか、彼は悠々(ゆうゆう)とした足取りで歩み出てくる。

「……不届き者」

 そう呟いた真白さんの顔に不機嫌な色が滲んだ。
 存在ごと拒絶するみたいに睨みつける。

「何とでも言えよ。俺は悪魔だぜ? 道徳なんか知るか」

 対して御影は気にも留めていない様子で、いつも通り堂々と興がるように笑っていた。
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