メリーでハッピーなトゥルーエンドを

 郁実を見返す柊先輩の瞳がわずかに揺れる。
 だけど、彼の信じる“正しさ”の根幹(こんかん)ごと揺らしたわけではないだろう。

 少なくともわたしへの仕打ちに罪悪感があって、それがまだ残っていた。
 いまの一瞬でそのことが証明された。

 けれど、彼にだって唯一の選択肢だったんだ。
 玲ちゃんの生きている未来を信じるには、自分を殺して、わたしを殺して、事実ごとひっくり返していくしかなかった。

 だからってもちろん、許されることではないけれど。

(でも……)

 郁実の言うことも、痛いほど理解できる。

 わたしも何もできないまま彼を失い続けたからこそ、一方的に奪われるだけの理不尽さは身に染みて分かっていた。

 郁実は自ら運命に殺されていたわけだけれど、もしそうじゃなかったら。
 明確に郁実の命を奪おうとする相手がいたとしたら、きっとこんなに冷静じゃいられない。

(じゃあ、正しい運命って何……?)

 そんなの建前だ。
 わたしも郁実も柊先輩も、繰り返した“今日”の中で求めていたのはそんなものじゃなかった。

 ただ、大切な人が当たり前に生きている“今日”。
 望んだ結末はそれだけだった。

 “正しさ”なんてあるのかな。
 少なくともいまさら、その存在証明に意味なんてない。

「……そうか。そうかもしれない」

 ぽつりと呟かれたひとことは小さかったのに、質量がやけに大きくて重たげに響いた。

「真白さん?」

 柊先輩が(いぶか)しげに彼女を見やる。
 わたしもまったく同じ心持ちでそうした。

「この子が亡くなる結末が正しいと信じて疑わなかったけど……確かに一理ある。結果がすべて。事実は事実。彼女は生き永らえ、彼の妹は命を落とした。それだけのこと。起きたことは、訪れるべくして訪れた運命」

 どこか遠い眼差しで言葉が繋がれる。

「不覚だった。最初に起きた出来事の通りなら、確かに彼女は生きるべき。死ぬべきは彼の妹の方だった」

 とっさに言葉を失った。
 完全に手のひらを返してみせた真白さんに、どう反応するべきかも分からなかった。

 彼女はずっと、わたしが越えるべき“天秤”だったはずなのに。

 最初はふいに妹を失った柊先輩に対して、純粋な慈悲や同情があったのだろう。

 それでも“不覚”とまで言ったのは、そんな情が使命を果たすにあたっての判断を鈍らせたということだ。

「そんな……」

「何だよ、それ」

 たまらず口を開いたものの、低められた柊先輩の声が空間を両断した。
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