メリーでハッピーなトゥルーエンドを

「味方じゃなくても、きみだけは俺の理解者だと思ってたのに。ふざけるな、いまさらそんなばかげたこと……!」

 真白さんを捉える眼差しは、悲しみや憎しみ、怒りや失望を凝縮(ぎょうしゅく)したように強く鋭い。

 当然の反応だった。
 彼からしてみれば、裏切られたに等しい。

 だけど、これが天使という存在の恐ろしいところなのだろう。
 いつだって重んじるのは神さまの意向で、誰であろうと関わっている人の感情は置き去り。

「ばかげたこと? なにを言ってるの? 正しい運命に導くことはわたしにとって大義(たいぎ)だよ」

「きみが最初に言ったんだろ、生きるべきは玲だって! だから俺はきみを信じたのに……!」

 柊先輩がどんな思いで天使と手を(たずさ)えてここまで突き進んできたのか、考えてみるとたまらなくなる。

 貫かれるような痛みを覚えてうつむくと、この場でひとりだけ暢気(のんき)な御影が笑みをたたえた。

「あーあ、仲間割れか。先は読めねぇもんだな。やっぱり俺と契約しておけばよかったのに」

 まるで空気を読まない自分勝手な発言。
 それでもいまは、お陰で感情に飲み込まれることなく平静さを取り戻すことができた。

「────柊先輩」

 そう呼んだ声は自分でも驚くほど冷静に澄んでいた。
 感情的な彼の眼差しが惑うようにわたしに定まる。

 先輩がしてきたことは、越えてはいけない一線を侵した、言うなれば罪。
 受け入れることも許すことも到底できない。

 だけど、想像も理解も及んでしまう。

 理性が壊死(えし)しても、身体が(むしば)まれても、重い十字架をひとり背負い続けるなんて、どれほどの痛みと覚悟が必要なんだろう。

 わたしが彼の立場だったら、同じことができるだろうか。

 少なくともわたしの心には、この期に及んでも柊先輩に対する憎しみなんてない。
 むしろ、これ以上苦しまないで欲しいとさえ願ってしまう。

「玲ちゃんのことは死なせません」

 泣きたくないのに涙が、笑う余裕なんてないのに淡い笑みが浮かんだ。
 彼の瞳がいっそう揺れる。

 “今日”ばかりは玲ちゃんの死を何がなんでも避けないと。

 彼女はわたしの死ぬタイミングに居合わせる運命ではあるけれど、わたしの代わりに死ぬ運命ではないはずだ。

 庇われることがなければ救える。
 そしたら、最終的に命を落とすのは────。
 
「そういうわけにはいかない。本来の結末通り、正しい運命を……」

「正しいも間違いもない。結末はわたしが決める」

 不服そうに口を挟んだ真白さんに(よど)みなく返す。

 そのとき、ふと御影に言われたことが蘇ってきた。

 ────どんな結末を選ぶも……カナ、すべてはおまえ次第だ。

 いまになって気がつく。
 彼の言葉はどれも、単なる励ましでも煽り文句でもなかったのだと。

 すべてはわたしが選んだ結果で、わたしの意思の積み重ね。
 その上で紡がれる結末ならきっと後悔しない。

 何より、これがみんなを救う唯一の方法だ。
 不幸にすることも傷つけることも耐えられないから。
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