メリーでハッピーなトゥルーエンドを
天使の砂時計の特性を聞いたとき、これしかないと思った。
この先、ただの一瞬たりともわたしのことで苦しめたくない。
半ば縋るように彼を見つめていたものの、そんな申し出すら想定内だったのか御影は顔色を変えない。
「別に構わねぇけど、明日になればどうせ忘れる。わざわざ記憶をいじるまでもねぇだろ」
「でも、それだと“今日”はずっと覚えてるんでしょ? わたしが消えても囚われ続けるんでしょ。そんなの嫌だ。自分を責めて欲しくないの」
わたしの存在ごと忘れるわけじゃないから、明日やその先ではまた、思い出すたび辛い思いをさせてしまうかもしれない。
きっと、御影ならわたしもろとも記憶から消すことだってできるだろう。
郁実に負わせる傷を思えば、その方がいい。
だけど、そこまでできないのはわたしのわがままだ。
悲しませるくらいならいっそ忘れて欲しいのに、わたしたちの紡いできた時間までもを失うなんて嫌だ。
あの頃の思い出も、繰り返した幻の日々も、取りこぼすことなく抱えていたい。
その欠片だけでいいから、郁実にも持っていて欲しい。
そして、たまにでも懐かしんでくれたら、それだけでわたしは報われる。
「……分かったよ。なら、タイムリープや砂時計のことは忘れさせてやる」
「あと、悪魔だとか天使だとかその存在のことも。それと、元のシナリオだけを残して」
つまり、わたしが命を落としたという結果のこと。
死因はさておきその事実だけを残し、繰り返した日々のすべてはなかったことにして欲しい。
柊先輩は約束通り砂時計を返すだろうから、彼の中では自ずとそうなるはず。
あとは御影が手を施してくれれば、郁実の中からも巻き戻りの記憶が消えて、わたしの死だけが認識として残る。
それでいいんだ。
この先もずっと、わたしだけは覚えている。
決死の選択を目の当たりにできて、彼らの愛と覚悟に触れられてよかった。
誰もが忘れてもこの胸の内に留めておけば、絶望ではなく奇跡を信じられる。
「注文が多いな、まったく。けど、お安い御用だぜ。おまえの望みなら叶えてやるよ。俺は悪魔だからな」
「……ありがとう」
光を帯びる彼の瞳は、傾いた陽と同じ色をしていた。
まるで夕陽を吸い込んでそのまま閉じ込めたみたい。
「ねぇ。わたし、死んだらどうなるの?」
そう尋ねると、御影は「そうだな」と何気なく仰いだ。
「そもそも、普通なら俺たち悪魔は姿を消してるもんなんだよな。それで、契約者が死ぬときに現れる」
「え? でも最初、契約したらその人の近くにいないといけない決まりだって……」
「あれは半分嘘だ。実際、姿は見えなくてもそばについてる。けど、それだけじゃ退屈だろ」
にやりと笑いかけられ、合点がいった。
御影の場合はただ“特等席”で見物して楽しみたいがために、人間に化けてまでわたしや郁実のそばにいたわけだ。
とはいえ、わたしと契約する前はあくまで控えていたみたい。
仮にも名前なんてなかったし、クラスメートだった覚えもないから。