メリーでハッピーなトゥルーエンドを
「どうだ、退屈だろ?」
「……でも、ひとりじゃないんだね」
それがいまのわたしにとって、どれほどの救いと言えるだろう。
ほっと表情を緩めて御影を見やると、静かに笑い返される。
「俺しかいねぇけどな」
ふと、わたしは扉の方に視線を戻す。
駆けていった郁実の残像が目の奥に焼きついていた。
「郁実は御影のことも見えてないみたいだったけど……」
「ああ。俺が次にあいつの前に姿を現すのは、魂をもらうときだ。つまりは死ぬとき。そのときはカナ、おまえも一緒に来いよ」
「……うん」
できればそれは遠い遠い未来の話だったらいい。
“今日”が霞むほどの過去になってからの話だったら。
そんなことを切に願い、うつむく。
すると御影が遠くを眺めるように口を開いた。
「大抵の人間は、最期に俺の姿を見て契約を思い出す。だから、もしかしたら……繰り返した“今日”のことも、そのときなら思い出すかもな」
「そのときは……そうだったらいいな。でも、それまでわたしのこと覚えててくれてるかな」
「逆の立場だったら? 忘れられるわけねぇだろ」
「そうだね」
思わず小さく笑いながら顔を上げる。
優しい光が先ほどよりも広く降り注ぎ、雲間から光芒が射していた。
天使のはしごが降りている。
「さて、それじゃ行くか」
「郁実のところに、だよね? まだ魂は取らせないけど」
「ばーか、分かってるよ。俺を侮るなよ」
そんな言葉を聞きながら、扉の方へ足を向けた。
開けられはしなくても、きっと手だけじゃなく身体ごとすり抜けられるはず。
「ちょっと待て。まさか、階段を一段一段下りてくつもりか? もっと早い方法があるだろ」
「あ、そっか」
そういえば、この悪魔は瞬間移動もできるのだった。
いまならわたしも同じように一瞬で移動できるかもしれない。
そう思いながら、差し伸べられた手を取った。
不思議と彼の手はすり抜けることなく、黒い手袋の質感まで感じられる。
しっかり握り返されたかと思うと、眩しい陽を背負っていた御影が唐突にきびすを返した。
なぜか、そのまま屋上のふちへと進んでいく。
「え……。えっ? ち、ちょっと待って、まさか」
「まさかじゃねぇよ、これが最短だ」
「待って! わたし、さっきので高所恐怖症になりそうで……っ」
「大丈夫、死にやしねぇよ。だろ?」
「で、でも……!」
振りほどこうと抵抗しても、何を言ってみても、御影には敵わなかった。
半分だけ振り向いてみせた彼はにやりと笑う。
「俺といるってのは、そういうことだ」