メリーでハッピーなトゥルーエンドを
次の瞬間、わたしの足は再び地面を離れていた。
浮遊感に包まれた直後、風を受けて急速に下へ吸い込まれていく────。
その傍ら、目をつむると浮かんでくるのは郁実のこと。
なぜかこの瞬間、一緒に過ごしてきた幼い頃からの記憶が走馬灯みたいに駆け巡ってきた。
宿題のこと、ふたりで買いにいったお菓子のこと、ゲームセンターで遊んだこと、ふわふわしたうさぎのクッション……。
もう何年も行っていないはずなのに、彼の部屋の様子までありありと思い出せた。
わたしはずっと、ひとつだけ嘘をついていた。
本当は、わたしの中で郁実は特別だった。
ただの幼なじみじゃなくなっていた。
曖昧に捉えていたその“特別”の意味が、この幻みたいな“今日”を繰り返すうちに分かったんだ。
強く自覚した。
わたしは、郁実のことが好き。
それなのに“幼なじみ”に留まったのは、ほかでもないわたしだった。
いまより遠くなってしまうのが怖くて、期待はしても前に進む勇気が持てなくて。
臆病なまま、自分が傷つかないための予防線を張り続けていただけ。
わたしたちは、幼なじみだった。
もっと早く気づいていたら。
認めていたら、きっと……。
────伝えたいことがあって。
そう言ってくれたことを思い出す。
最後まで聞けなくて惜しいけれど、お陰でむしろ踏みきれた。
歪曲したシナリオを、つぎはぎながらどうにか元通りにした。
だけど、決してハッピーエンドとは呼べないだろう。
それでも最後までこの想いを貫けたことは、守り抜けたことは誇らしく思う。
いつか、遠い未来でまた会えたときには叱ってもらおう。
どうか身勝手なわたしを許して欲しい。
郁実の心に傷をつけ、痛みを残してしまう乱暴なわたしを。
だけど、最後まで諦めなくてよかった。
時を超えて、何度も繰り返したからこそそう思えた。
「……っ」
肌を刺すような冷たい風で目が覚めた心地がした。
まったくもって、ついさっきの再現だ。
真下には、地面に叩きつけられて横たわるわたしと真っ赤な血の海が広がっている。
またしてもあの激痛と苦痛に襲われるのかと、恐怖で身を縮めた。
だけどその瞬間、吹き上げてくる風が和らいだ。
「え……」
そっと目を開けると、わたしは漂うように宙に浮かんでいた。
はら、と舞ったのは闇のように黒い羽根。
「ほら、大丈夫だっただろ」
そう言って八重歯を覗かせる御影の背中には、黒々と綺麗な翼があった。
陽の光を受けて艶めいて見える。
「もう……! そんなことができるなら最初から言ってよ。飛び降りる必要だってなかったのに。本当、いい性格!」
「それじゃつまんねぇだろ。まったく、そんな褒めんなよ」
心底楽しそうに笑みを深める御影は相変わらずだった。
怒っても呆れてもいまさらで、ため息をつくに留める。
その手を握ったままゆっくりと地面に降りていった。
(郁実……)