メリーでハッピーなトゥルーエンドを
郁実の家に行くことはわたしにとって当たり前の日常だったのに、高学年になるとだんだんその頻度が減っていった。
中学生になる頃には、学校で話はしても遊ぶことはなくなった。
女子は女子、男子は男子、みたいな分け方を急にされて、そういうものだって何となく流されて。
嫌いになったわけでもないのに、わたしたちの間にはひとり分くらいの間隔が空いた。
最初はどっちでもよかったんだ。
お気に入りのうさぎがわたしの部屋にあっても彼の部屋にあっても、ほとんど毎日入り浸っていたら変わらないから。
けれど、足が遠のくうちにいつしかそれは、わたしたちが変わったことの象徴みたいになってしまった。
わたしはふわふわの手触りが恋しくなるたびに、郁実はたぶん目に入るたびにあの頃を思い出したと思う。
だからこそ、ずっと待っていた。
あのうさぎともう一度会えるときを────それは、あの頃に戻るということだから。
このまま郁実とどんどん遠くなって、話すらしなくなってしまったら、と思うと寂しくて怖かった。
そのときの口実にしようと思っていたんだ。
本当はずっと、もう何年も、あのふわふわが恋しい。
「……あのうさぎ、いまでもあるの?」
一度もその可能性を考えていなかったことにいまさら驚く。
けれど、不安になるまでもなく答えは分かっていた。
「あるよ、もちろん。花菜に会えなくて寂しがってる」
「じゃあそろそろ会いに行かないとだね。また抱き締めて寝ようっと」
「抱き締めるのはいいけど寝ないでよ。宿題早く終わらせるから」
思わず笑うと、郁実も笑った。
楽しそうなその笑顔があの頃の彼と重なる。
(……何も変わってなんかなかった)
勝手に遠ざかったように思い込んでいただけで、本当は変わらず近くにいたんだ。
それが嬉しくて、ほっとして、心がじんわりとあたたかくほどけた。
「明日にでも来て。次は僕の家でご飯食べよう、また昔みたいに」
ふいに心臓がどきりと沈み込んだ。
“明日”。
それがもう当たり前じゃなくなったことを実感し、心の表面がひりついた。
「……うん、明日」
絶望感を跳ね除けようとあえて口に出してみる。
そんな未来が訪れるのかは、きっとぜんぶわたし次第だ。