メリーでハッピーなトゥルーエンドを
────電車の到着を知らせるアナウンスが構内に流れると、まばらだった周囲の人影も増えてきた。
わたしたちの後ろにできた列の中には、同じ制服を着ている人も少なくない。
ほどなくして、ホームに電車が滑り込んでくる。
「……あのね、ごめん。さっきの嘘」
気づいたら口をついていた。
うつむいたとき、揺れる自分の影が見えた。
「さっきの?」
「うさぎを置いていったの、郁実のせいとかじゃなくて本当は────」
顔を上げた瞬間、ふいに言葉が途切れた。
どん、と背中に強い衝撃が走って思わず息をのむ。
「……っ」
「花菜?」
反射的に踏み出した足が地面を捉え損ね、ふっと浮いた身体が線路に投げ出されかけていた。
ちかっと電車に弾かれた太陽の光が目に刺さる。
(轢かれる……っ)
とっさに郁実が手を差し出してくれたものの空振ってしまう。
だけど、そのまま抱きとめるような形でわたしの胴に腕が回された。
お陰で落下の勢いは失せたけれど、このままじゃふたりとも落ちる。
ぎりぎりで踏みとどまっていた片足に力を込めようとしたとき、今度は前から肩を突かれた。
「う……」
傾いていた身体がバランスを崩し、何が起きたのか分からないままホームに倒れ込んだ。
同時に目の前から郁実が消える。
「郁実!」
けたたましい音が耳をつんざいた。
彼が背中から落ちていった瞬間、電車が残像とともに通り過ぎていく。
強い風に煽られ、目眩がした。
「そんな……嘘でしょ」
心臓が激しく打ち、血の気が引く。
車輪とレールの擦れる音があまりに激しくて、衝突音こそかき消されたけれど、何が起きたのかは明らかだった。
事故を知らせるアナウンスと周囲のざわめきとが、耳の奥で残響みたいにこだまする。
ひどい耳鳴りに呼吸が震えた。
「何で」
混乱しながらも事実を受け止められたのは、たぶん彼の死が初めてじゃないからだ。
徐々に頭が状況を飲み込み始める。
線路に落ちそうになったわたしを、庇うようにして抱きとめてくれた郁実。
その勢いのままふたりとも落下するところだったけれど、とっさに彼が正面に飛び出してきた。
そうやって回り込むように前から突き飛ばしてくれたお陰で、身体の重心が後ろに傾き、わたしは事なきを得た。────わたしだけが。
結末を変えられず、郁実はまた“今日”に殺されてしまった。
背中に未だ感触が残っている。
強い衝撃が尾を引き続けていた。
(誰かに、押された……)
力なく座り込んだまま、恐る恐る後ろを振り向いた。
目が合った瞬間、音が止む。
そこにいたのはあの背の高い、ショートカットの彼女だった。