メリーでハッピーなトゥルーエンドを

 こいつは何なのだろう。
 混乱を極めながらも、その言葉は深く胸を(えぐ)ってきた。

 僕なら何とかできたんだろうか。
 確かに目を離さなければ、とっさに庇えたかもしれない。
 手の届く距離にいたんだから。

「そんなこと言ったって、もう……」

「やり直せたらいいよな」

 唇を噛んだとき、そう言った彼が軽快に電車から飛び降りた。
 歩み寄ってきて不敵な笑みをたたえる。

「それができたら、そいつは死なずに済むかも。おまえが救えたら」

「僕が?」

「ああ、助けたいだろ?」

 何を言っているのか、ますますわけが分からなかった。

 やり直すなんて、助けるなんて無理だ。
 もうこの世にいない花菜を救おうと思ったら、時間でも巻き戻らない限り……。

「チャンスをやろうか」

 彼はひときわ笑みを深め、すっと手を掲げる。

 その手には黒い砂時計があった。
 咲いている薔薇はまるで本物みたいで、鮮やかなコントラストに戸惑う。

「こいつを使えば時間を巻き戻せる。その女の死もなかったことになる。与えられた機会は、5輪の薔薇がぜんぶ枯れるまでだ」

 到底信じがたい話なのに、なぜか気圧(けお)されてとっさに言葉が出なかった。

(本当に?)

 花菜の死がなかったことになる────その言葉に希望を抱いてしまったのだ。
 藁にもすがる思いだった。

「ただし、条件がある。俺さまと契約しろ」

「契約……?」

「おまえにこの砂時計を貸す代わりに、おまえが死んだら俺が魂をもらう。どうだ、悪くないだろ」

 途方もない話にますます困惑が膨れ上がる。
 深くて赤い彼の双眸(そうぼう)を見つめたまま、とんでもないことになったとようやく実感が追いついてきた。

(それって、まるで……)

「慈悲なんか期待すんなよ。俺は悪魔だ」

 明かされた正体は思った通り、だけど心底驚いてしまった。
 そんなものが確かに存在しているなんて。

 魂を奪われたらどうなるんだろう。
 悪魔と契約なんてあまりに危険な響きだ。

 そもそも本当に時間を巻き戻すことができるのか、この男もその砂時計も本物なのか……。
 怖気づいてしまうと、ふっと悪魔が笑った。

「安心しろ、砂時計の効果は保証する。けど、巻き戻したからって必ずあいつを救えるとは限らねぇからな。“今日”の結末はおまえ次第だ」
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