メリーでハッピーなトゥルーエンドを
◆
「……ちゃん。お兄ちゃんってば」
瞼の裏を冴え渡るような青色がよぎる幻を見た。
天使から受け取ったあのひとひらが幾重にも重なって、薔薇の花びらが流れていったみたいだった。
「え?」
「まったく、寝ぼけてるの? ほら、今日は忘れないでね」
差し出されたランチバッグと呆れたような玲の顔を思わず見比べる。
薄い光の漂う玄関と卵焼きのにおい、それから一瞬だけ意識が飛んでいたような感覚。
何もかもがデジャヴだ。
(何がどうなって……)
困惑したままスマホを取り出し、ロック画面を確かめた。
日付はなぜか、昨日のまま────。
「ちがう……。また戻った……?」
どういうことだろう。
いったい、なぜ?
玲を死なせることもなく、天使が現れることもなかった。
無事に本来の“今日”を終え、明日を迎えるはずだったのに。
それなのに、どうしてまた“今日”の朝に逆戻りしているんだろう。
「どうしたの。何か変だよ」
「あ、ああ……ごめん。何でもない」
動揺を隠せずうろたえる俺を、訝しそうに見つめた玲が首を傾げる。
誤魔化すように苦く笑ったものの余裕はなかった。
「そう? あ、遅刻しちゃう。お兄ちゃん、早く出て」
追い立てられるように家を出て、玲が鍵をかける。
そんな日常の一連をなぞりながら、ますます戸惑いと不安が膨らんでいった。
(何で……)
時間が巻き戻ったのだろう。
“昨日”のすべてが夢だったとはとても思えない。
何かが間違っていたのだろうか。
だから、強制的にやり直しになった?
(でも、俺のやることは変わらない……はず)
玲を死なせないよう、守り抜けばいいだけだ。
あとのことは天使がどうにかしてくれる。
そう信じるしかない。
────3度目の“今日”はほとんど“昨日”と代わり映えのない一日だった。
玲のことは強く気にかけたし、結末が不安なのは確か。
それでも、天使というある意味“守護神”みたいな存在が背後にいるお陰か、それほど気を揉むこともなかった。
彼女がいれば、ふいに玲が命を落とすことはないように思えたのだ。
きっとそうなる前に春野さんを死へ導くだろうから。
【やばい、近くで火事あったって】
【2年の女子の家らしいよ】
【その子と連絡つかなくて、巻き込まれたんじゃないかって】
だから、“昨日”みたいに友だちからそんなメッセージが届いても驚きはしなかった。
遠くからサイレンの音が響いてくる。
すっかり日の落ちた暗い街を、一瞬のうちに赤色灯が裂いていった。
“今日”も春野さんは亡くなったはずだ。
俺には分かる。
推測じゃなく確信していた。
このタイミングで家が家事になるなんて、絶対に偶然じゃない。
天使が手を施したんだ。
「……ちゃん。お兄ちゃんってば」
瞼の裏を冴え渡るような青色がよぎる幻を見た。
天使から受け取ったあのひとひらが幾重にも重なって、薔薇の花びらが流れていったみたいだった。
「え?」
「まったく、寝ぼけてるの? ほら、今日は忘れないでね」
差し出されたランチバッグと呆れたような玲の顔を思わず見比べる。
薄い光の漂う玄関と卵焼きのにおい、それから一瞬だけ意識が飛んでいたような感覚。
何もかもがデジャヴだ。
(何がどうなって……)
困惑したままスマホを取り出し、ロック画面を確かめた。
日付はなぜか、昨日のまま────。
「ちがう……。また戻った……?」
どういうことだろう。
いったい、なぜ?
玲を死なせることもなく、天使が現れることもなかった。
無事に本来の“今日”を終え、明日を迎えるはずだったのに。
それなのに、どうしてまた“今日”の朝に逆戻りしているんだろう。
「どうしたの。何か変だよ」
「あ、ああ……ごめん。何でもない」
動揺を隠せずうろたえる俺を、訝しそうに見つめた玲が首を傾げる。
誤魔化すように苦く笑ったものの余裕はなかった。
「そう? あ、遅刻しちゃう。お兄ちゃん、早く出て」
追い立てられるように家を出て、玲が鍵をかける。
そんな日常の一連をなぞりながら、ますます戸惑いと不安が膨らんでいった。
(何で……)
時間が巻き戻ったのだろう。
“昨日”のすべてが夢だったとはとても思えない。
何かが間違っていたのだろうか。
だから、強制的にやり直しになった?
(でも、俺のやることは変わらない……はず)
玲を死なせないよう、守り抜けばいいだけだ。
あとのことは天使がどうにかしてくれる。
そう信じるしかない。
────3度目の“今日”はほとんど“昨日”と代わり映えのない一日だった。
玲のことは強く気にかけたし、結末が不安なのは確か。
それでも、天使というある意味“守護神”みたいな存在が背後にいるお陰か、それほど気を揉むこともなかった。
彼女がいれば、ふいに玲が命を落とすことはないように思えたのだ。
きっとそうなる前に春野さんを死へ導くだろうから。
【やばい、近くで火事あったって】
【2年の女子の家らしいよ】
【その子と連絡つかなくて、巻き込まれたんじゃないかって】
だから、“昨日”みたいに友だちからそんなメッセージが届いても驚きはしなかった。
遠くからサイレンの音が響いてくる。
すっかり日の落ちた暗い街を、一瞬のうちに赤色灯が裂いていった。
“今日”も春野さんは亡くなったはずだ。
俺には分かる。
推測じゃなく確信していた。
このタイミングで家が家事になるなんて、絶対に偶然じゃない。
天使が手を施したんだ。