メリーでハッピーなトゥルーエンドを
だけど、どうして“昨日”と展開を変えたんだろう?
もしかしたら、再び巻き戻ったことは、彼女にとっても意図していない不本意な出来事だった可能性がある。
それなら、わざわざ別の死をもたらした理由にも何となく理解が及んだ。
そのときだった。
はら、と目の前を白い雪のようなものが横切った。
「羽根……?」
床に落ちたそれを拾い上げたとき、ふと冷たい夜風が舞い込んできた。
開けた覚えはないのにいつの間にか窓が開いている。
枠に手を添えて立っていたのは、天使だった。
「きみ、どうやって……」
「だめみたい。厄介なことになった」
俺の言葉を無視して、背中の羽根をたたみながら目を伏せる。
ため息混じりに首を横に振った。
「だめ、って何が? それよりどうなってるの? どうしてまた時間が……?」
彼女を見て、思い出したように疑問が口をついた。
けれど、それも取り合うことなく淡々と歩み寄ってくる。
「とんだ不届き者が正しい未来を邪魔してる。運命は変えられない。変えるべきじゃない。変えようとすること自体が罪なのに」
ぞくりと図らずも背中が冷たくなった。
無表情の中に静かな怒りが窺えて気圧されてしまう。
「どういう意味……? じゃあやっぱり“今日”巻き戻ったのはきみの仕業じゃなかったのか」
「そう、別の存在がタイムリープしてる。“今日”改めてあの子を連れていけば書き換えられると思ったのに、往生際が悪い……」
少なくとも理解できたのは、それに関してはさっきの憶測が正しかったということだ。
“今日”がまた繰り返されたのは、やっぱり天使の意思じゃなかった。
正しく終わらせるために春野さんの最期を変えたけれど、その“別の存在”とやらがまた時を戻そうとしているということだろう。
「どうしようもないのか? 玲を守っても、春野さんが亡くなっても……“明日”は来ない?」
「永遠に、ってわけじゃないけど。わたしとしては看過できない」
憂うようにそう言った彼女の手には、いつの間にか砂時計があった。
白い木枠に青色の薔薇が咲いている。
「これをあなたに貸してあげる。運命と戦うにしても平等であるべきだから」
「これ、は……?」
「ひっくり返すと時間が戻る、特別な砂時計。正しい“今日”を終えられたら、そのとき返して。そしたら余計なことは忘れて、また地続きの日々を生きていける」
おずおずと受け取った砂時計は、想像していたより重く感じられた。
絡みついた薔薇も本物にしか見えない。
(これで時間を戻せる?)