メリーでハッピーなトゥルーエンドを
実際にタイムリープを体験した以上、その点は疑いようもなかった。
玲が生き、春野さんが亡くなる────そんな本来の運命をたどり、邪魔されることなく“今日”を終えられたら。
“明日”を迎えられたら、天使に砂時計を返せばいい。
抽象的なもの言いではあるものの、そんな趣旨も掴むことができた。
砂時計を返せば、最後には記憶でも消えるのだろうか。
繰り返した“今日”やこの非現実的な巻き戻り現象のすべてを忘れ、当たり前の続きを生きていけるのかもしれない。
「ただ……忘れないで。わたしはあなたの味方じゃない」
無色透明な澄んだ天使の声が耳に浸透してくる。
「この砂時計もそう。巻き戻せるのは薔薇が咲いてる限り。そして薔薇を失うほど、あなたの身体は蝕まれていく」
それを聞いた途端、砂時計がいっそう重みを増した気がした。
鮮やかな青色が目に染みる。
ぎゅう、と強く握り締めた。
「……どうなったっていい。玲が生きてさえいれば」
俺自身が壊れたって、ほかの誰が死んだって構わない。
玲だけはこの手で守り抜かないと────。
それが、残された俺の使命だ。
「春野さんが“死ぬべき者”だって言ったよね」
「言った。だからあなたに砂時計を渡したの。この意味、分かる?」
向けられた深い瞳とその眼差しを静かに受け止める。
────彼女は先ほど“平等であるべき”とも言った。
ということは、きっと不届きな別の存在とやらも同じように砂時計を使っているんだ。
天使みたいな超常的な何かと協力しているのだろう。
それなら彼女の意図は明確だ。
利害が一致したから、俺に手を貸してくれるということ。
あるいは天使らしく慈悲を施してくれたのかもしれない。
いずれにしても、結果として俺たちの目的は同じと言える。
「……分かるよ。元に戻せばいいんだろ」
玲と春野さん、入れ替わってしまったふたりの運命を。
そもそも春野さんがいなければ、玲が死ぬこともない。
だから、先に彼女が命を落とすよう仕向ければいいんだ。
天使がそうしていたみたいに原因ごと排除してしまえば、いくら邪魔されようと玲を守り続けることができる。
そうすれば、何度繰り返しても無駄だと思い知るだろう。
玲を守れるのなら、この手を血で汚す覚悟だってある。
俺は絶対に諦めないし、折れてやらない。