メリーでハッピーなトゥルーエンドを
     ◆



【春野さん、急にごめんね】

【話したいことがあるんだけど、いまから会えない?】

 そんなメッセージを送り、何気なくトーク画面を眺める。

 これ以前の最後のやりとりは去年の冬頃で終わっていた。
 委員会の活動に関する事務的な内容だけれど、友好的で無害で、楽しそうにさえ見える。

「…………」

 “こんなこと”がなければ、きっといい関係でいられた。
 彼女はかわいい後輩だったはずなのに。

 そんなことを考えながら、玲に隠れてキッチンから包丁を持ち出した。
 刀身(とうしん)にタオルをぐるぐる巻きつけておく。
 返信を待ちつつ、ウィンドブレーカーのフードを被った。

 俺が自ら手をかけるのは、現状を悲観しての最終手段じゃない。
 希望に一歩でも近づけるなら進んでやってやる。

 だからこそ、天使は俺を見込んで機会を与えてくれたのだと思う。

 春野さんを死へ(いざな)うのは、天使だって俺だってどっちでも構わないはずだ。

【こんばんは】

【いまからですか?】

 ふと暗転していたスマホが光って、メッセージの通知を浮かび上がらせた。

 それきり()とも(いな)とも言わない間が続いて、さすがにためらっていることが窺える。

 失敗したな、と思った。
 警戒させないようにもっと早い段階から近づいておけばよかった。

 少なくとも“今日”一日は自由な猶予があるわけだし、気があるふりでもして適当に距離を詰めておけばスムーズに済んだはずだ。
 ()があるのならそうしよう────。

【遅いのにごめんね】

【近くまで行くから、ちょっと出てきてくれるだけでいいんだ】

【どうしても顔見て伝えたくて】

 すぐに既読がついた。
 画面を開いたまま迷っていたのだろう。

 だけど、彼女からの返信は途切れたまま。
 たまらずやきもきした。

(強引すぎた……? でも、別に警戒されるほどじゃないはずなのに)

 春野さんに直接敵意を向けた覚えはないし、何をこんなにためらっているのか分からない。
 確かに、夜に女の子を誘い出すなんて非常識かもしれないけれど。

 いまからでもにおわせた好意にさっさと釣られてくれればいいのに、思ったよりも手強くて先に進めない。

【でも、今日はもう家から出ない方がいいって……】

 ふいに差し込まれた彼女からの返信に眉をひそめる。

 誰かにそう言われたということだろうか。
 いったい誰に……?

 まるでその身に起こる惨劇を知っているみたいな、先回りした言葉だ。

(まさか、砂時計の……?)
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