メリーでハッピーなトゥルーエンドを
その持ち主なのか、使い手なのか、それがそもそも同一人物なのか分からないけれど、ふいによぎったその可能性は十分ありうるものだと言えた。
そんな助言をするなんて、まるで春野さんを助けたいみたいに思える。
もしや、俺や天使がその命を狙っていることに気づいているんだろうか。
(いや、それでもいい。春野さんさえ殺せれば……)
玲より先に死んでくれれば、その結果さえ得られれば、それでいいのだから。
【本当に少しだけでいいから】
【どうしても今日じゃないとだめなんだ】
冷静に追い打ちをかけるつもりが、焦燥の乗った指先はそんな言葉を勝手に紡いでいた。
ここで折れてくれないと二の句が浮かばない。
祈るような思いで返信を待っていると、やがて吹き出しが滑り込んできた。
【分かりました、行きます】
内心ほっとしながら自省した。
こんな行き当たりばったりじゃだめだ。
出し抜く必要があるんだから、もっと確実な方法を取らないと。
それこそ彼女に近づいておくか、あるいは不意打ちのような手段か。
“今日”が今回で終わらないと、無意識のうちに認識してそんなことを考えていた。
ひとまず春野さんを彼女の自宅近くの公園に呼び出し、包丁を隠し持って家を出た。
彼女とは去年、委員会終わりに何度か一緒に帰ったことがあるから、ここからそれほど遠くないことも分かっている。
それはいまの俺にとってラッキーな偶然と言えた。
ひとけのない閑静な住宅街を、夜の暗闇が闊歩していた。
大通りの喧騒や車の走行音は遠すぎて聞こえない。
指定した公園に一歩近づくたび、意思に反して緊張感が増していく。
(怖い、わけじゃないはずだけど……)
玲のためならどんなことだってしてのける。
そんな強い覚悟があるのに、何を怖気づいているんだろう。
そう考えたとき、頭の片隅にいたひときわ冷静な自分が俺の歩みを止めた。
確かに────春野さんには同情の余地がある。
意図して危険な目に遭ったわけじゃないし、わざと玲を身代わりにしたわけでもない。
奇跡的に助かった。
それなのに、運命が歪んだからって死に直す羽目になったんだ。
ホームから転落して電車に轢かれるとか、火事に巻き込まれて焼死するとか、そんな残酷な目に遭っていることを忘れながら、何度も命を落とす羽目に。
可哀想だなんて軽々しくは言えないし、心が痛まないわけがない。
彼女自身は悪くないのだから。
そこまで考え、はっと我に返る。
(……ちがう。ちがうだろ)
慌ててかぶりを振り、気を持ち直した。
春野さんは玲を死に誘う元凶でしかない。
彼女を庇わなければ、玲が死ぬこともなかった。
玲の目の前で死にかけたことが、玲と居合わせたことそのものが罪なんだ。
存在しているだけで玲を脅かす。