メリーでハッピーなトゥルーエンドを
「とにかく“今日”はこれでいい。どうせ終わらないから」
「……それは“不届き者”とかいうやつが邪魔してるせいで?」
「そう。向こうにも砂時計がある以上、あの子に手を下すのがあなたでもわたしでも同じ。薔薇が枯れるまでいたちごっこね」
その言葉にはっと目を見張った。
まさか、本当に砂時計で────。
それならその目的も憶測通り、春野さんを救うこと?
そう思い至ると、いっそ冷徹になれた。
やっぱり、みんな敵だ。
天使の保証があるように、本来の運命通りに春野さんを死に追いやることは正義なんだ。
それを妨害している誰かを、彼女が“不届き者”と称したのもその証明でしかない。
俺は間違っていなかった。
恐怖なんて的外れだし、罪悪感なんて感じる必要もなかったのだ。
彼女の死が必然である以上、その結末に抗うなんて傲慢で無謀だ。
運命を変えようとすること自体が罪だと言ってのけた天使の主張に理解が及ぶ。
運命なら避けられないのに、まったく利己的でしかない。
そのためなら、他人である玲を犠牲にしても構わないと言うのか?
ふざけているにもほどがある。
「……受けて立つよ。何度でも思い知らせてあげないとね」
玲を、誰かの自分勝手なハッピーエンドの踏み台になんかさせてたまるか。
いま、ようやく吹っ切れた。
もう二度とためらわないし、春野さんに同情もしない。
「妹想いのあなたならそう言うと思った」
静かに頷いた天使がおもむろに歩み寄ってくる。
包丁を握る俺の手に触れた。
「こうなったからには、わたしもあなたのそばについてることにする」
「それは、どういう……?」
「何かあるといけないから、クラスメートとしてね」
重ねられていたその手が離れたとき、温もりを帯びていたことに遅れて気づく。
「クラスメート?」
「うん、転校生。みんなの記憶を書き換えておくから誰にも怪しまれない」
目を瞬かせると、平板な声色で答えが返ってくる。
いつも通り薄い表情をたたえているにちがいない。
「そんなことまでできるのか……。だったらその力を俺に貸してよ。春野さんの記憶をいじって、俺と近い関係だったことにすれば狙いやすい」
いや、それならいっそ希死念慮を植えつけるのが一番スムーズだろう。
そんなことを考えたものの、彼女は首を横に振った。
「侮るのはやめて。わたしは天使だから」
「そうか、あくまでも。汚い手を使うのはプライドが許さないか」
「それもそうだけど、天命に背くことはしない」
“天命”が神さまの意思を指すなら、それは天使の意思とは別のところにあるのだろうか。
あるいは、そもそも使者である天使に主体性なんてないのかもしれない。