メリーでハッピーなトゥルーエンドを

「話を戻すけど、あなたがわたしに名前をつけて」

「俺が? 名前……?」

 クラスメートとして溶け込んでも不自然じゃない響きを求めているのだろう。

 そんなことを頼まれるなんて思わなくて、わずかに呆気(あっけ)に取られた。

「うーん、そうだな……」

 彼女にとってはきっと名前なんてただの記号に過ぎないだろうけれど、何となくおざなりには決められなかった。

 外灯の明かりに照らされ、ぼんやりと影が濃くなる。
 彼女の眼差しがまっすぐ向けられているのが分かった。

 ────初めて会ったときの印象は、真っ白。
 服も肌も羽根も(けが)れを知らない無垢(むく)の象徴だった。

 そしてもうひとつ、イメージ深いのは“光”だ。
 彼女が与えてくれた機会そのものも、俺にとっては希望という名の光でしかない。

「うん、決めた。きみの名前は真白ひかり」

「ましろ、ひかり」

 なぞるように繰り返したのを聞いて、俺はその場に屈み込んだ。
 適当な木の枝を拾って“真白”と砂に書く。

「名前の漢字は……そうだな。ひと文字でもいいけど、バランス的に……」

「どっちでもいい」

「いや、待って。せっかくだし」

 任せたくせに悲しいほど無頓着(むとんちゃく)な彼女に構わず、“ひかり”と読める漢字を手当り次第書いていった。
 少しの間悩んでから、ややあって“光莉”を丸で囲む。

「これがいい。きみは真白光莉で決まり」

「……どうせ消えるのに。あなたが兄なの、何だかすごく納得」

 呆れたようなため息混じりに、天使もとい真白さんは言った。

 熱は低いものの、同じように屈むと俺の手から枝を取って“真白光莉”と書いてみせた。
 何はともあれ気に入ってくれたみたいだ。

「どんな兄なのかも分かった気がする」

「どんなの?」

「…………うっとうしい」

「はは、兄ってそういうもんだろ」

 思わず肩をすくめて笑ってしまった。
 ついさっき人を殺したなんて思えない────倫理的にも、心のゆとり的にも。

 繰り返せば慣れてしまうのだろうか。
 自分の人間性を失っていくことと同義に思えて虚しくなった。

 それでも、きっと玲を救えなかったときの方が失うものは計り知れないだろう。
 だから諦めるわけにはいかない。

 せめてもの(あがな)いとして、真白さんに委ねきらないで俺自身も手を汚し続けることにする。

 もう、綺麗なまま終わることはできない。
 俺は一線を越えた。
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